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特殊詐欺被害~複数人からの示談の申入れ~
オレオレ詐欺などの特殊詐欺被害に遭ったときに、複数人から示談の申入れがある場合があります。その場合の問題について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
事例
東京都葛飾区に住むAさんは、オレオレ詐欺の被害に遭い300万円をだまし取られてしまいましたが、警察の捜査の結果、Aさんを騙した掛け子役のXと出し子役のY及び指示役のZの3人が逮捕されました。
その後、XとYのそれぞれの弁護人から別々に、Aさんに対して「300万円の賠償と引き換えにXに対して刑事処罰を求めないという示談をしてくれないか」という連絡がありました。
Aさんは、XやYとの示談をした場合に自分が不利にならないために、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の無料相談を受けることにしました。
(フィクションです)
示談とは
示談と一口に言っても、その内容は様々です。
単に賠償金(被害弁償金・示談金・解決金)を受け取っただけでも示談と言われることがありますが、基本的には、賠償金を受け取ったうえで、それ以上にお互い金銭のやり取りはしないという条項(「清算条項」という。「本示談書に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する」というような文言のことが多い。)を設けて解決を図ることを示談や和解ということが多いです。
もっとも、刑事事件においては、さらに「加害者に対して刑事処罰を求めない」などの加害者を許す条項(「宥恕条項」という。)まで設けた示談(刑事示談)を行うことが多いです。
示談については、こちらもご覧ください。https://higaisya-bengo.com/jidan_wakai_kaiketu/
複数人から示談の打診があった場合~被害金額を超えて示談金を受け取れるか~
刑事事件の内容によっては、加害者が複数人いる場合があり、そういった場合には、複数人から示談を申し込まれることもあります。
損害賠償請求をする場合には、加害者が複数人いるときには、共同不法行為となり、被害者の方は加害者それぞれに対して自分が被った損害の額全額を請求することができます。
事例のAさんの場合には、Xに対して300万円、Yに対して300万円、Zに対して300万円をそれぞれ請求することができます。
しかし、仮にXがAさんに対して300万円を支払った場合には、AさんはさらにYやZに対して300万円を請求することは出来なくなります。
もっとも、示談交渉の中で受け取る場合には、あくまでも任意交渉ですので、一人から被害金額全額を受け取ったとしても、別の人から別途解決金として金銭を受け取るということは可能です。
そのため、事例のAさんの場合には、XとYそれぞれから300万円を支払うという打診が来ていますので、それぞれから300万円を受け取ることが可能です。
複数人から示談の打診があった場合~宥恕の効果~
共犯事件で、加害者全員から示談の申入れがあった場合、示談を受けると当然加害者全員に対して効果を与えることになります。
特に宥恕文言が入っている示談を締結した場合、加害者全員が不起訴処分となり刑罰を受けなくなる可能性があります。
もし、どうしても刑罰を受けてほしいと考えている場合には、賠償金は受け取るが許すつもりはないということを明確にしておくべきでしょう。
問題となるのは、共犯者の一部の者からしか示談の申入れがなかった場合です。
共犯者の一部とだけ示談をしたとしても、その効果は示談をしていない共犯者に対しても及ぶ可能性があります。
たとえば、事例のAさんがXとYから示談金の支払を受け、XとYには刑罰を求めないという宥恕付きの示談をした場合、XとYの処分について軽くなることは当然ですが、示談金を受け取ったことにより、Zについても有利な事情として扱われ、Zの処分も軽くなる可能性があります。
特に、告訴をしている事件について、共犯者の一部とだけ示談して、示談の内容としてその一部の共犯者に対する告訴を取り消すという文言が入っていた場合、告訴の取消しは共犯者全員に効力が及ぶため(刑事訴訟法238条1項)、共犯者全員に対する告訴の効果が失われてしまいます。
刑事裁判にかけるために告訴が必要とされている事件(親告罪)の場合には、一部の者に対する告訴の取消しであったとしても、全員に対する取消とされてしまうので、刑罰を与えることが出来なくなってしまうことに注意が必要です。
その他、示談における一般的なメリット・デメリットについては、こちらをご覧ください。https://www.houterasu.or.jp/higaishashien/toraburunaiyou/keiji_tetsuzuki/jidan/faq1.html
示談の申入れがあれば
示談の申入れがあった場合、その申入れの内容が法律的に見て妥当かどうかは経験を積んだ弁護士に確認してもらうのが一番です。
特に複数人から示談の打診があった場合には、安易に示談を受け入れてしまうと思ってもいなかった効果が発生する場合もあります。
そのため、示談の申入れがあったときにすぐに結論を出すのではなく、専門家である刑事事件専門の弁護士にまずは相談してみてください。
【報道解説】営業秘密が不正取得されたため損害賠償請求
営業秘密の不正取得に関する報道について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
1 報道の内容
「かっぱ寿司」の運営会社「カッパ・クリエイト」の前社長が営業秘密を不正に取得したとして、回転ずしチェーンなどを展開する「ゼンショーホールディングス(HD)」の子会社はま寿司は27日、カッパ社や前社長らに5億円の損害賠償などを求めて東京地裁に提訴した。ゼンショーHDが発表した。
カッパ社の田辺公己前社長(47)はゼンショーHD幹部だった2020年、商品原価データなどの営業秘密を不正に取得したとして不正競争防止法違反(営業秘密領得など)の罪に問われ、懲役3年、執行猶予4年、罰金200万円の判決が確定している。
ゼンショーHDによると、事件の捜査や刑事裁判の過程で、持ち出されたデータがカッパ社内で使用されていたほか、同じコロワイドグループのコロワイドMDにも開示されていたことが分かった。はま寿司各店舗の損益計算書や売上高なども不正取得され、カッパ社に開示されていたことを確認したとしている。
ゼンショーHDは損害額を63億円以上と算出した。
(令和5年12月27日 共同通信/Yahoo!ニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/93f8f98623dc3bcaad258572c8326ab36ec69698)
2 営業秘密の不正取得
報道において、カッパ・クリエイト社の元社長は、不正競争防止法違反(営業秘密領得など)の罪に問われ、懲役3年、執行猶予4年、罰金200万円の判決が確定しているとされています。
不正競争防止法は、不正競争を防止するなどによって、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とした法律です。
「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」をいい、商品原価データなどは「営業秘密」に当たります。
そして、報道で指摘されている営業秘密領得とは、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、人を欺いたり、暴行や脅迫をしたり、財物の窃取、施設への侵入、不正アクセス行為などにより、営業秘密を取得することをいいます(不正競争防止法21条1項1号)。
カッパ・クリエイト社の元社長が具体的にどのような方法によったかは、報道では指摘されていませんが、上記のような営業秘密領得に該当する場合、10年以下の懲役もしくは2000万円以下の罰金(または罰金を併科)とされています。
3 損害賠償請求・代理人活動
報道において、カッパ・クリエイト社の元社長は、既に、その刑事責任に関する処分がなされており、その上で、「はま寿司」は、カッパ・クリエイト社や元社長らに対し、5億円の損害賠償請求をしています。
これは、はま寿司がカッパ・クリエイト社等に対し、民事責任を追及するものです。
そもそも民事責任を追及しようと民事訴訟を起こす場合、請求する側が証拠に基づいて主張する必要があります。
どのような証拠に基づき、どのような主張をする必要があるかについては、法律的な観点が必要になります。
特に、不正競争防止法に関する損害賠償請求の場合、請求の相手方が、故意・過失によって不正競争を行い、他人の営業上の利益を侵害したことを主張していく必要があります(同法4条)。
さらに、不正競争防止法には、損害額を推定する規定(同法5条1項)など特別な規定もあり、弁護士のサポートというのは必要不可欠ともいえます。
このように、営業秘密領得の被害を受けた会社は、その加害者側に刑事処分が下された後でも、生じた損害の回復を目指すなど、状況に応じた対応が求められます。
4 最後に
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、不正競争防止法違反の被害に遭われた方への支援を行っています。初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。https://higaisya-bengo.com/soudan/
【報道解説】元従業員の顧客情報の持ち出し
元従業員が顧客情報を持ち出したという報道について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
1 報道の内容
勤務していた事務所から顧客の情報を持ち出した疑いで元社員の40代の税理士補助の男が逮捕されました。
不正競争防止法違反疑いで逮捕されたのは、静岡県富士市三ツ沢に住む税理士補助の男(47)です。
警察によりますと、男は2023年4月頃、当時の勤務先だった富士市内の税理士事務所で、60の事業者の顧客情報をUSBなどに複製し、持ち出した疑いがもたれています。
事件は、男が仕事を辞めた後の5月に、被害を受けた事務所が警察に相談したことで発覚しました。
男によって持ち出された情報による被害の有無などは現在調査中だということです。
(令和5年11月27日 静岡放送(SBS)Yahoo!ニュース より抜粋https://news.yahoo.co.jp/articles/ea3def710c20e7ce03448831834c223f3f16f6f1)
2 不正競争防止法とは
不正競争防止法は、不正競争を防止するなどによって、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とした法律です。
どのような行為が「不正競争」にあたるかは、不正競争防止法2条1項に書かれています。
今回の報道で問題となるのは、「営業秘密」(同法2条6項)です。
「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」をいい、顧客情報は、この「営業秘密」に該当すると考えられます。
3 顧客情報の持ち出し―加害者側の刑事責任
報道の事件では、当時の勤務先の事務所から顧客情報を持ち出した容疑となっています。
この男性がいた職場で、男性が顧客情報を取り扱うことができる業務に就いていましたが、事務所内から顧客情報を持ち出すことを禁止していたという場合、この男性は、「営業秘密を営業秘密保有者から示された者」として、不正の利益を得る目的や事務所に損害を加える目的があるとき、不正競争防止法21条1項3号に違反し、10年以下の懲役または2000万円以下の罰金(もしくは併科)の範囲で刑事責任を問われる可能性があります。
なお、具体的な事情によっては、適用される罰条が変わる可能性があります。
4 被害者側における代理人活動
まず、報道のような、不正競争防止法違反の事案における被害者となった場合、被害者側としては、捜査機関から捜査協力の依頼や事情聴取を受けることが考えられます。
その際には、弁護士のアドバイスを踏まえて、対応していくことが重要になってきます。
また、報道の事件では、既に刑事事件化しているため、加害者側の弁護人から、被害者側へ示談交渉の連絡が来る可能性があります。
示談に応じるか、応じるとしてもどのような内容であれば応じるかについては、具体的な事案を踏まえて、慎重に検討する必要があり、この点にも弁護士のサポートの必要性があります。
加害者側との間で示談をせず、民事訴訟を提起するという方法も検討する必要があります。損害賠償の請求については、こちらの記事もご参照ください。https://higaisya-bengo.com/isyaryou_songaibaisyoiu/
民事訴訟となった場合のメリット、デメリットを想定し判断していく必要があります。
さらに、不正競争防止法においては、「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。」とされ、差止請求というものもあります(同法3条1項)。
手続も一般の方には馴染みのない手続となりますので、こうした手続を採ることを考えた場合、弁護士のサポートは不可欠のように思われます。
5 最後に
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、不正競争防止法違反の被害に遭われた方への支援を行っています。初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
キャバクラがボーイによる窃盗被害に遭った場合
キャバクラの店員であるボーイが店のお酒を盗んだ事件を例に、キャバクラ店としてどういった対応ができるのかを弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
事例
大阪市北区にあるキャバクラ店でボーイとして働いていたAが、店でお客さんに提供するために発注していた高級シャンパン(購入価格1本あたり4万円、店での販売価格1本あたり10万円)を合計10本を勝手に持ち帰り、転売していたことが、在庫が合わないことを不審に思った同店のオーナーVの調査で発覚した。
VはAに責任を取らせるためにはどうするのがよいのか弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所に相談することにした。
(フィクションです)
窃盗罪か業務上横領罪か
本事例のAは、店のお酒を勝手に持ち帰っているため、窃盗罪が成立すると考えられます。
もっとも、Aが単なる従業員ではなく、店長など店の在庫を管理する権限を持っていた場合には、窃盗罪ではなく業務上横領罪が成立することになります。
このように、Aの店での立場や役職によって、成立する犯罪が変わる場合があります。
なお、Aは持ち帰ったお酒を転売していますが、転売していることは「不可罰的事後行為」となり、基本的に犯罪は別途成立しません。
刑事事件化する場合のメリットデメリット
Aが店のお酒を持ち帰ったことは、上述のように犯罪に該当するため、Vとしては、警察に対して被害届の提出や告訴などを行い、刑事事件化することが考えられます。
刑事事件化するメリットとしては、Aが刑罰を受ける可能性が出てくること、Aから示談交渉などで被害弁償をしてくれやすくなることが挙げられます。
デメリットとしては、警察が捜査のために店に立ち入ったり、Vや店の店員に事情聴取などが行われたりするなど、捜査へ協力しなければならなくなり、警察の立ち入りにより店のイメージが損なわれたり、事情聴取などへ協力しなければならなくなることから業務に支障が出たりすることが挙げられます。また、刑事事件化したとしても必ずAが刑罰を受けるとは限らないという点にも注意が必要です。
刑事事件化するには
刑事事件化するには、警察に捜査を開始してもらう必要があります。
そのためには、被害届を提出したり、告訴をしたりする必要があります。
しかし、多くの場合、警察は被害届や告訴をすぐには受け取ってくれません。
「犯罪の証拠がない」「民事の話である」などと理由を付けて受理を拒みます。
そのため、警察に被害届等を受理してもらうためには、あらかじめ重要と思われる証拠は収集しておき、被害届等を受理するように警察に働きかける必要があります。
弁護士に依頼すれば、証拠収集や警察に受理してもらいやすい被害届や告訴状の作成などを行ってくれます。刑事事件化した場合の流れについては、こちらの記事もご参照ください。https://osaka-keijibengosi.com/keiziziken_flow/
損害賠償請求する場合のメリットデメリット
Vとしては、Aに対して店が被った損害の賠償を求めることもできます。
Aに対して金銭賠償を直接求めることもできますし、裁判所に損害賠償請求訴訟を提起することもできます。
多くの場合は、直接賠償を求めると思いますが、いくら損害賠償を請求する権利があるとしても、請求の仕方によっては恐喝罪に問われてしまう可能性もあるため、弁護士に依頼して交渉の窓口になってもらいましょう。
裁判所に損害賠償請求訴訟を提起する場合のメリットは、裁判所が下した判決を基にAの財産を差し押さえるなど強制執行が可能になることが挙げられます。
一方デメリットとしては、損害の立証をVがしなければならないこと、裁判には時間もお金もかかること、Aに財産がなければ勝訴したとしても金銭的な賠償が実現されないことがあげられます。
そのため、損賠賠償請求訴訟を起こす前に、充分な証拠を収集し、Aに財産があるかないかを調査する必要があります。
また、本件では、損害としてシャンパンの購入価格での算出をするのか、販売価格での算出をするのかについても検討する必要があります。
キャバクラの場合には、購入価格と販売価格が大きくことなることがあり、本件でも1本当たり6万円の差があります。
そのため、Aとしては購入価格での賠償を申し出てくる可能性が高いため、販売価格での賠償を求めていく場合には、その請求が正当なものかどうかを含めて弁護士に相談することが重要です。
示談交渉の活用を
これまで説明してきたように、刑事事件化では店のイメージダウンにつながったり、業務に支障が出たりといったデメリットが考えられ、民事訴訟にも時間と労力、お金の問題があります。
そのため、まずは示談交渉を行い、Aから任意で損害を賠償してもらえるように働きかけることも活用しましょう。示談交渉については、こちらの記事もご参照ください。https://higaisya-bengo.com/jidan_wakai_kaiketu/
Aに絶対に刑罰を受けてもらいたいといったような要望が強くある場合でなければ、もっともはやく賠償を実現できる可能性があります。
また、示談は契約の一種なので、AだけではなくAの家族に賠償金の支払いをしてもらったり、連帯保証をしてもらうというような条件を付けることも可能です。
民事裁判の判決では、そういったことは不可能なので、早期の賠償実現のために示談交渉の活用もご検討ください。
会社役員による業務上横領事件 刑事事件化すべきかの判断基準
青森県内で発生した会社役員による業務上横領事件について、あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
事件概要(10月31日配信のABA青森朝日放送の記事から引用)
八戸市の水産加工会社の元役員が、業務上横領の疑いで逮捕されました。容疑者は、当時役員を務めていた八戸市の水産加工会社で、2020年12月に、2回に分けて合わせて83万円を着服横領した業務上横領の疑いが持たれています。被害会社によりますと、元役員が2012年4月から2021年3月までに複数回にわたり、不正に金銭を引き出して私的に流用し、被害総額は2億円にのぼるとしています(引用元記事https://www.aba-net.com/news/news-91364.html)。
業務上横領事件が起きた場合の刑事手続
警察が捜査を開始する端緒には様々なものがありますが、その一つに被害届の提出があります。業務上横領事件の場合は、会社内部で不透明な資金の流れや不自然な会計処理が発覚し、内部調査を経て警察に被害届が提出されるという流れが多いです。
被害届を受理した警察は、本格的に捜査を開始していきます。在宅のまま被疑者(容疑者)の取調べを行うこともありますが、引用事件のように逮捕がされることもあります。逮捕に引き続いて勾留の決定がされた場合は、被疑者は最大20日間の身体拘束を受けることになります。
刑事処分は警察官ではなく、検察官が起訴・不起訴の判断をして決定します。勾留の決定がされている場合は、勾留の満期日までに検察官が処分を決めます。引用した事件では会社役員が業務上横領罪の疑いで逮捕されていますが、刑法253条は業務上横領罪の法定刑を「10年以下の懲役に処する」と定めているため、検察官が起訴の判断をした場合は、被疑者は必ず刑事裁判を受けることになります。刑事正式裁判になると、最終的に裁判所が有罪・無罪の判断及び量刑の決定をします。刑事事件の流れについては、こちらの記事もご参照ください。https://sendai-keijibengosi.com/keijijikennonagare/
会社役員が業務上横領事件を起こした場合
刑事事件によっては、被害者からみて被疑者が誰か分からないこともありますが、業務上横領事件の場合は、まずは内部調査を行うことがほとんどなため、被害届を提出する前に被疑者が判明する場合もあり得ます。
警察に被害届を提出する前に、会社が役員から事情を聴くこともできます。ケースによっては、すぐに警察へ被害届を提出するよりも、内々での対応にとどめた方が有益なこともあります。例えば、会社側が聞き取りを行って、役員が横領の事実を認め、弁償の意思も資力もあるとなれば、示談を締結することで早期に問題を解決することも可能になります。示談については、こちらの記事もご参照ください。https://higaisya-bengo.com/jidan_wakai_kaiketu/
これに対して、被害届を提出して刑事事件化した場合、被疑者となった役員が逮捕・勾留されて長期間の身体拘束を受けることで、役員が自ら弁償のために資金工面に動けなくなり、かえって問題の解決を長引かせてしまうリスクもあります。また、逮捕がされた場合は基本的に実名報道がされることになるため、被害に遭った会社に非はないにしても、警察沙汰になったことが大々的に報道されることで、会社自身も思わぬ風評被害を受けてしまうこともあります。
被害に遭った会社から弁護士に相談・依頼するするメリット
このように、会社役員による業務上横領事件が発生した場合、被害届を提出して刑事事件化するべきかどうかは、会社や役員を取り巻く事情によって変わってきます。そして、その判断は容易にはできません。刑事事件となった場合に、被疑者が逮捕・勾留される可能性、起訴されて刑事裁判となる見通しについては、刑事事件の経験が豊富な弁護士に相談することが一番確実です。会社として顧問弁護士がいる場合でも、刑事事件としての見通しや被害者側としてどのような対応ができるかは、専門分野の弁護士に相談することが重要です。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、長年、刑事事件に力点を置いた弁護活動を行ってきた経験から、刑事事件化した場合の見通しを示し、早期の示談対応を行うといった、被害に遭ってしまった会社の求めるニーズに合わせた弁護活動を展開します。
会社役員による業務上横領事件の被害に遭ってお悩みの場合は、まずは弊所までご相談ください。刑事事件と被害者対応に実績のある弁護士が相談にあたります。
【報道解説】アニメイト関連会社元社長を特別背任の疑いで逮捕
アニメイト関連会社の元社長が特別背任の疑いで逮捕されたという報道記事をもとに、特別背任とはどのような罪か、会社役員が特別背任を犯した場合に会社としてどのような対応をとるべきかについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
ニュースの概要
漫画やアニメのグッズ販売会社「アニメイト」の関連会社に約1億8000万円の損害を与えたとして、警視庁捜査2課は令和5年11月15日、同社元社長のAを会社法違反(特別背任)容疑で逮捕した。
逮捕容疑は社長在任中の2019年5月〜22年4月、約70回にわたって人気カードゲーム「遊戯王」や「ポケットモンスター」などの中古トレーディングカードの仕入れを装い、経理担当者に指示して現金計約1億8000万円を関連会社から知人の口座に振り込ませた疑い。
捜査2課によると、送金された現金は数%の手数料を知人が得た上で、9割以上がAの個人口座に還流していた。同課は高級車の購入や家賃、クレジットカードの支払いなど、Aの私的な支払いに充てたとみている。
(日本経済新聞令和5年11月15日のWEB記事https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE152LX0V11C23A1000000/より抜粋、一部改変)
特別背任とは
特別背任罪とは、取締役など会社に対して重要な役割・義務を負う人物が、自己もしくは第三者の利益を図り、または会社に損害を与える目的で任務に背く行為をし、会社に財産上の損害を負わせた場合に成立する犯罪です。
取締役等による特別背任罪が成立した場合には「10年以下の懲役」もしくは「1000万円以下の罰金」に処せられるか、これらが併科されます。
刑法の背任罪よりも重い刑罰が定められており、行為者が会社の取締役や支配人などに限られていることが特徴です。背任罪については、こちらの記事もご参照ください。https://osaka-keijibengosi.com/haininzai/
今回のニュースのAは、会社の社長ということなので、代表取締役であったといえます。
そして、代表取締役が、知人及び自己の利益を図るために、架空の仕入れに基づいて会社財産を支出させ、会社に約1億8000万円の損害を負わせたということから、Aには特別背任罪が成立する可能性が高いといえるでしょう。
特別背任の被害に遭ったら
取締役等による特別背任の事実を発見した場合、会社としては①刑事告訴をする、②損害賠償を請求するという方法が考えられます。
①刑事告訴と②損害賠償請求は両立しますので、同時に行うこともできます。
①刑事告訴をする場合には、警察などの捜査機関に対して、告訴状を作成し、犯罪が行われたことを疑わせるに足りる十分な証拠を告訴状とともに提出することが一般的です。
告訴状の作成や証拠の収集のためには、内部調査として関係者への聴き取りや請求書・領収書・会計帳簿などの資料を精査するなどの必要があります。
そういった内部調査を十分に行ったうえで、捜査機関に捜査を開始してもらえるような告訴状を作成する必要があります。
しかし、内部調査だけでも膨大な時間と労力がかかりますし、告訴状も特別背任にあたるのか、それとも詐欺などの他の罪に当たるのか、特別背任にあたるということをどのように説明したらよいのかなど、専門的な知識が必要になります。
そのため、内部調査や告訴状の作成には、専門家である弁護士に担当してもらうのがよいでしょう。
②損害賠償を請求する場合には、いきなり訴訟を提起するよりも、直接取締役等に会社から賠償を請求することをまず考えるべきです。
民事訴訟を提起する場合には、訴状の作成、証拠の収集・提出、裁判への参加などとてつもない労力や費用が必要になりますし、時間も1年近くかかってしまいます。
そのため、まずは任意交渉で賠償を求めていくべきでしょう。
しかし、取締役等が事実を争ったり、支払い意思を示してくれなかったりという場合には、どうしても訴訟にせざるを得ず、場合によっては取締役の財産を差し押さえるなどのことも考えなければならなくなる可能性があります。
そういったときに、訴訟を提起しても費用倒れにならないかを検討したり、訴訟の前に今一度任意交渉をしたり、訴訟の遂行を担当するのが弁護士です。
専門家である弁護士に相談することで、任意交渉の仕方や訴訟をすべきかどうかについてのアドバイスももらえます。
刑事告訴や損害賠償を請求する前に
会社が特別背任の被害に遭った場合には、会社として加害者である取締役等になにがしかの罰を与えたいと思うと思います。
しかし、刑事告訴や損害賠償請求訴訟をする場合には、それによって会社自体が受ける影響も考慮する必要があります。
たとえば、今回のニュース記事のように、刑事告訴をして取締役等が逮捕されると、会社名を含めて報道に出てしまう可能性があります。
そのため、会社の信用が失われてしまい、会社経営に不利に働くかもしれません。
また、今回のニュースでは、会社社長が個人で得た利益について、確定申告をしていないことから、国税局からも法人税法違反等で告発を受けています。
法人税法違反で社長が起訴され有罪となると、会社も両罰として罰金刑を受け、会社が罰金を支払わないといけなくなる可能性があります。
このように、刑事告訴や損害賠償請求をしようとする場合には、それによって会社が被る悪影響についても検討しておく必要があります。
会社として、どのような対応をとるのが一番良いのかについて、専門家である弁護士に相談して、様々なリスクやメリットデメリットを検討してもらい、よりよい解決を目指してもらいましょう。弊所で実施しております無料法律相談の詳細については、こちらの記事をご覧ください。https://higaisya-bengo.com/soudan/
会社のお金を使い込まれてしまった!
会社のお金を使い込まれてしまった場合に、会社としてはどのような対応をとることができるかについて、参考事例をもとに、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
1 事例
東京都内に本店を置くX社は、大阪支店の金銭管理に不審な点があったため、調査したところ、大阪支店の支店長であるAが、会社のお金を使い込んでいる疑いを抱きました。
そこで、X社は、Aの面談を行い、事情説明を求めたところ、Aが、会社のお金(合計300万円)を私的な飲食代や遊興費に遣っていることを認めました。
(事例はフィクションです。)
2 Aの刑事責任について―業務上横領罪の成立
Aの行為は、次のように、業務上横領罪(刑法253条)に該当するものと考えられます。
Aは、大阪支店のお金を管理していたことから、大阪支店のお金を「占有」、すなわち、事実上支配していたといえます。
これは、Aが、「業務上」、すなわち、X社大阪支店の支店長として行っていたものです。
そして、Aは、大阪支店の金銭を、X社から任されている業務に背き、会社の
お金を私的に流用していた(法律的には、不法領得の意思を実現する行為などといいます。)ため、「横領」したといえます。
そこで、Aには、業務上横領罪が成立し、10年以下の懲役の範囲で、その刑事責任を問われることになります(業務上横領罪についてはこちらの記事もご参照ください。https://osaka-keijibengosi.com/oryozai/)。
なお、Aは、大阪支店の支店長ではなく、単なるアルバイトで、大阪支店のお金に関し何らの権限もないのに、そのお金(合計300万円)勝手に持ち出し、私的に費消したという場合、業務上横領罪ではなく、窃盗罪(刑法235条)が成立するものと考えられます。
このときには、X社側からすれば、被害を受けた金額は、上の参考事例と異ならないです。
もっとも、業務上横領の場合、信頼し、預けていた(委託信任関係といいます。)にもかかわらず、それを裏切って私的流用していたという面があり、そのことが、Aの刑事責任・民事責任に影響を及ぼす可能性があります。
3 X社における対応について
X社においては、まず、①警察に被害申告(被害届など)や告訴を行うことによって、Aの刑事責任を追及していくことが考えられます。
また、②被害申告や告訴を行うかどうかにかかわらず、Aに対し、被害弁償を求めていくということも考えられます。
さらには、③Aが現に、X社の従業員である場合、Aに対し、懲戒処分を行うのかなどを検討する必要もあります。
4 業務上横領の被害者代理人活動
まず、①X社が、被害申告や告訴を行う場合、捜査機関に対し、Aが横領行為を行っているという疑いを抱かせるだけの証拠を提出する必要がある場合があります。
X社には、Aの業務上横領に関し、それなりの証拠(金銭出納帳や領収証等)が残っている場合が考えられます。
そこで、弁護士の助言のもと、必要な証拠を捜査機関に、早期に提出し、捜査を迅速に行わせることが重要になってきます。
また、②X社が、Aに対し、被害弁償を求めていく場合には、会社として、単純に被害金額のみを返還してもらえばいいのか、示談を締結するのかなどについて、刑事責任や民事責任にどのような影響があるのかも考慮しながら判断していく必要があります。
さらに、③Aに対し、懲戒処分を検討する場合、懲戒処分ができるのか、できるとすればどのような処分が妥当なのか、事案に応じた検討が必要になります。
以上の点について、それぞれ検討する際には、弁護士のアドバイスというのが必要になってきます。被害者代理人としての活動についてはこちらの記事もご参照ください。https://higaisya-bengo.com/bengosi_irai_meritto/
5 最後に
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、業務上横領の被害に遭われた方への支援を行っています。初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
特殊詐欺
近年振り込め詐欺やキャッシュカードのすり替えなどが社会問題となっています。これらは特殊詐欺と呼ばれています。ここでは特殊詐欺について解説します。
特殊詐欺とは
特殊詐欺とは、電話等の非対面の方法で被害者を信じ込ませ、現金やキャッシュカードを騙し取ったり、犯人の口座に送金させる等して、不特定多数の者から現金等を騙し取る犯罪をいいます。
特殊詐欺の特徴としては、被害者とは直接対面することなく、電話等により被害者を誤信させることです。また、犯罪の種類としては、詐欺だけでなく、窃盗なども含まれます。
特殊詐欺の種類としては、以下のものがあります。
オレオレ詐欺
親族等を名乗り、「大事な書類の入った鞄を置き忘れた」「会社に損害を与えてしまいお金が必要」などと言って、現金を騙し取ったり脅し取る手口です。
預貯金詐欺
警察官や銀行協会職員等を名乗り、「あなたの口座が犯罪に利用されています。キャッシュカードの交換手続が必要です。」などと言って、暗証番号を聞き出し、キャッシュカード等を騙し取ったり脅し取る手口です。
架空料金請求詐欺
有料サイトやサービス料金等をうたい、「未払いの料金があります。今週中に支払わなければ法的手続きを取ります。」などと知らせ、犯人指定の口座に振り込ませたり、電子マネーを購入させて番号を聞くなどして、金銭等を騙し取ったり脅し取る手口です。
還付金詐欺
医療費、税金、保険料等をうたい、「還付金の返還のため手続きが必要です」等と言い、被害者にATMを操作させて被害者の口座から犯人の口座に送金させるなどして、不法な利益を得る手口です。
キャッシュカード詐欺盗
銀行協会職員等を名乗り、「あなたのキャッシュカードが犯罪に利用されています。職員がキャッシュカードの確認に伺います。」などと言い、キャッシュカードを準備させ、隙を見て偽物のカードとすり替える等して、キャッシュカード等を窃取する手口です。
融資保証金詐欺
電話やはがき、DM等で、実際には融資しないのに、「無担保、低金利、保証人不要」など簡単に融資が受けられると信じ込ませ、融資を申し込んできた人に対して「保証金が必要です」などと言って金銭等を騙し取る手口です。
金融商品詐欺
電話やはがき、DM等で、価値が全くない株や物品について嘘の情報を教え、購入すれば儲かると信じ込ませ、購入代金として金銭等を騙し取る手口です。
ギャンブル詐欺
雑誌やインターネット記事に「パチンコ、パチスロ必勝法」「パチンコ打ち子募集中」したり、電話やDM等で、「宝くじに当選しました」等と連絡を入れ、会員登録が必要等と言って、登録料や情報料として金銭等を騙し取る手口です。
交際あっせん詐欺
「女性紹介」等と雑誌に掲載したり、「交際相手を紹介します」といったDMを送り、利用を申し込んできた人に、会員登録料や保証金等として、金銭等を騙し取る手口です。
強盗
特殊詐欺の手口を用いた強盗が多発しています。消防の点検や銀行員の訪問予約等と偽って被害者が自宅にいるようにして、正規の訪問だと思って応対した被害者を脅して、金銭等を強取手口です。予約を装った電話では、在宅の有無の他、家族構成や住人がいる時間、資産状況やその場所なども聞いてきます。
特殊詐欺の特徴
特殊詐欺は、上記のように非対面で相手を信じ込ませて行う犯罪です。特殊詐欺に特徴的なものとして以下のものがあります。
かけ子
不特定多数に電話をかけて被害者を信じ込ませる役割を担います。
受け子
現金を受け取りにったり、キャッシュカードをすり替えるために被害者宅を訪問する役割を担います。その後現金やキャッシュカードをロッカーに入れたり別の者に渡すことも行います。
アポ電
事前にかけ子が警察、消防、銀行協会の職員等と偽って被害者に電話をかけ、予め銀行員等が訪問する時間を予約して、被害者が自宅にいることを確保して、さらなる特殊詐欺や強盗につなげるものです。アポ電では、訪問の予約の他、家族構成や住人がいる時間、資産状況やその場所なども聞いてきます。
特殊詐欺の被害に遭ったら
特殊詐欺の被害の回復
特殊詐欺の被害を受けた後で、特殊詐欺の犯人を捕まえるのは容易ではありません。
捕まったとしても、たいていは受け子です。これらは被害金額に比して低い報酬しか受け取っていないことが多く、被害者も複数に上ることが多々あります。そのため、一人の被害者が受け子から回収できる損害賠償金額は少なくなってしまいます。犯人の家族が賠償に協力することはありますが、それでも被害金額の全額が返ってくる保障はありません。
暴対法による救済
特殊詐欺により逮捕された受け子などが暴力団の構成員である場合は、暴力団の代表者等に対し損害賠償請求できる可能性があります。
暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)第31条の2では「指定暴力団の代表者等は、当該指定暴力団の指定暴力団員が威力利用資金獲得行為(当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為をいう。以下この条において同じ。)を行うについて他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」(第1項本文)と定めています。この規定により、暴力団員が暴力団のしのぎ(資金獲得活動)として、携帯電話等の設備の準備や受け子の手配など特殊詐欺に関わり、被害者に財産的な損害を与えた場合は、指定暴力団の代表等に損害を賠償することができます。この暴対法により損害賠償請求が認められた事件もあります(東京地裁判決令和3年2月26日、最高裁第一小法廷決定令和3年9月9日等)。
もっとも、これも暴力団の関与が明らかな事案に限られ、たまたま暴力団員が受け子だっただけで暴力団の関与が明らかでない事案などでこれを用いて暴力団の代表の責任を追及するのはハードルが高いといるでしょう。
振り込め詐欺救済法による救済
特殊詐欺の被害者の救済策として、犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(振り込め詐欺救済法)に定める被害回復分配金の支払があります。これは、金融機関が、犯罪に利用されているとの疑いがある預金口座等の取引を停止し、公告を経て失権(預金等債権の消滅)させ、その残額分を原資として、被害者に被害回復分配金を支払うものです。
分配金の支払を受けるには、被害の申請が必要となります。
また、この法律は預金口座等に振り込んだ事件を対象とするものです。受け子に現金を手渡ししたり、キャッシュカードをすり替えられたり、現金を郵送したような場合は、この法律の適用は受けられません。
犯人の処罰
近年は特殊詐欺について厳罰化しており、受け子で前科がなくとも実刑となることが多いです。事件数や被害金額によっては10年近くの懲役刑になることもあります。
特殊詐欺を防ぐには
特殊詐欺の方法は複雑になってきており、思いもよらない方法で犯人グループが近づいてきます。それでも、特殊詐欺の被害を防ぐためにはいくつかの方法があります。
すぐに電話に出ない
特殊詐欺のかけ子は巧みな話術で話しかけてくるため、電話に出るとそのまま信じ込まされてしまうおそれがあります。
ナンバーディスプレイ機能の電話にして誰がかけてきたか分かるようにするのがよいでしょう。在宅時でも留守番電話設定にして、知っている相手にだけ折返しかけるようにするのが良いでしょう。通話相手に警告メッセージを出して通話内容を録音する機能が付いているものも効果的です。
通話相手に確認する
親族等を名乗って電話をかけてきたときは本当に本人がかけてきたのか確認しましょう。かけ子は電話番号を変えたなどと言ってくることもあるため、かけてきた番号へ直接折返すと、そのまま誘導されてしまうおそれがあります。折返しではなく、電話帳に登録している番号にかけましょう。
不自然な行動には対応しない
特殊詐欺では警察や銀行協会職員等社会的に信用性がありそうな職業を名乗ってやってくることが多いです。しかし、警察や銀行員がカードの確認などと言って自宅に訪問することはありません。また、コンビニ等で電子マネーのカードを購入させて、その番号を聞き出すことも行われますが、このような形で支払いを求める正規の事業者はいません。このような行動にはすぐには対応しないようにしましょう。本当の話かどうか警察等に電話をする手もありますが、かけてきた番号に折り返しをしてはいけません。必ず自分で調べた番号に書けるようにしましょう。
会社内での不正事件
不自然な支払いが繰り返されていたり、書面もないのに莫大な額の金銭の動きがあったりすると、会社のお金が不正に使用されている可能性があります。このようなときはどうすればよいでしょうか
会社内における不正行為への対応
犯人・被害の特定、調査
会社内で不正が生じた場合、被害の継続を阻止し、犯人を特定し、被害額を特定する必要があります。その際、証拠隠滅などされないよう、調査を進める必要があります。関係のある部署の既存メンバーにアクセスを禁じるなどの対応も必要となるでしょう。会社内での権限や事務手順、金銭の流れなどから、犯人を絞り込むことが期待できます。
犯人が自ら不正の事実を認め、休職等により現場を離れ、調査に協力してくれるのであれば、被害の継続の阻止や、犯人や被害の特定は進むでしょう。
一方で、不正を行ったと十分疑える証拠があっても、本人が自分はそのようなことをしていないと反論する可能性もあります。その場合、証拠隠滅がされないよう調査を進め、反論を考慮してもやはり犯人だといえる証拠があれば、弁護士に相談したり、警察等の捜査機関による捜査を求めることを検討する必要があります。
時効の問題
不正を行った犯人や被害額が特定できても、すべての被害金額を回収できるとは限りません。不正から時間が経っている場合は、時効の問題が生じるため、早急に対応する必要があります。
民事においては横領等の不正も不法行為であり、会社側は不正をした者に対し損害賠償請求権を有します(民法第709条)。これは損害および加害者を知った時から3年間、不法行為の時から20年間、行使しなければ時効によって消滅します(民法第724条第1号第2号)。20年以上前の不正については請求することはできなくなります。また、損害の実態や不正をした者を把握しても、返還交渉中に時効が成立する可能性がありますので、債務を承認させたり(民法第152条第1項)、訴えを提起して裁判上の請求をする(民法第147条第1項第1号)など、時効が完成しないようにする必要があります。
刑事においては、時効期間はより短くなっています。業務上横領や電子計算機使用詐欺など長期10年の懲役という重い罪が成立する場合であっても、公訴時効は7年です(刑事訴訟法第250条第4号)。したがって、7年以上前の不正使用については罪に問うことはできないのです。公訴を提起すれば時効は停止します(刑事訴訟法第254条第1項)ので、刑事処分を求めるつもりであれば、早急に警察や検察に被害を届け出て処罰を求める必要があります。
民事手続
不正を行った者に対しては不法行為に基づく損害賠償請求をすることが考えられます。もっとも、裁判自体裁判費用や弁護士費用がかかりますし、時間もかかります。そのため、不正を行った者が自発的に事実関係を認めて弁償するのがもっとも負担が少なく損害を回復することができるでしょう。また、後述する刑事手続で不正を行った者に実刑判決が下されると、その者は収監されてしまうため、弁償も期待できなくなります。そのため、警察に被害届をする前に、まず相手方が自発的に支払えるよう和解(示談)交渉することが有益です。
和解の内容は和解契約書・示談書といった形で書面に残して記載するべきです。また、万が一相手方が支払いを怠ったときは直ちに強制執行できるよう、公正証書に強制執行認諾文言を記載する形にしておくのが良いでしょう。
交渉に当たっては、上記のとおり時効が完成しないように注意する必要があります。また、仕事を続けさせたり、分割払いを認めるなど、現実的に被害金額の回収が可能な内容にするのが良いでしょう。一方で、不正を行った者が弁償できない場合やするつもりがない場合、被害届や告訴など刑事手続に移行することも検討するべきです。
刑事手続
会社内の不正行為といっても、犯人の地位や立場、行為の態様によって、成立する犯罪が違ってきます。業務上横領、詐欺、電子計算機使用詐欺、など様々な犯罪が想定されます。
特に、警察に告訴をする際には、被害者側において、犯罪事実を特定する必要があります。犯人(告訴の際は「被告訴人」といわれます)が会社内においてどのような地位にあったか、どのような権限・責任を有していたか、どのような業務を行っていたか、といった事実を詳細に記載する必要があります。また、不正の証拠や、被害額を特定できる資料も同時に提出するべきです。
被害金額が100万円以上だと、不正を行った者(被疑者)が逮捕される可能性があります。被疑者が逮捕されると、続いて勾留されることが多いです。逮捕と勾留は通算して最大23日までで、それまでに検察官が被疑者を起訴するか否かを決めます。勾留期限の満期までに被疑者が被害額全額を弁償すれば処分保留あるいは起訴猶予で釈放されることはありますが、そのようなことがなければ起訴されるでしょう。起訴の際の被害額は、検察官が証拠により特定できた金額、時効が成立していない罪についての金額となります。そのため、会社自身が特定した被害金額全てについて起訴されるとは限りません。
起訴された被告人が事実関係を認めている場合、公判における審理は1回で終わり、次回で判決となることが多いです。被害金額が500万円以上で弁償できていないと、前科がなくても実刑となる可能性があります。
一方で、被告人が事実関係を争うと、公判は長期化する可能性があります。経理担当者や役員が証人として出廷し、被告人の弁護人から反対尋問を受けることもあります。
税務上の処理
不正を行われた結果、会社のお金が減ったことになりますが、税金は全く変わらず課せられるのでしょうか。
不正利用により会社に損失が発生していますので、当該損失が生じた事業年度の損金の額に算入するとされています。一方で、これにより不正を行った者に対して損害賠償請求権を有することになるため、これを益金として計上することになります。この損害賠償請求権は相手方との和解等による合意や訴訟等によりその額が決した事業年度の益金の額に算入するとされています(異時両建説)。
もっとも、不法行為の相手方が会社外の者(「他の者」)ではなく会社の役員や使用人である場合は、損害賠償請求権も損失が発生した事業年度の益金に算入するという説もあります(同時両建説)。
弁護士への相談
このように、会社の金が不正に使用されていた場合、被害について調査するにも回復するにも大変な労力が必要となってきます。これを会社の通常業務を行いながら進めていくというのは困難です。
こうした場合、早期に弁護士に依頼することも考えるべきでしょう。
弁護士に依頼することで、会計資料の調査や関係者のヒアリングを行い、犯人や被害額の特定を進めることができます。
その後は、犯人と和解交渉をして被害金額の回収を図ることができます。任意に弁済できなかった場合、訴えを提起し、判決を得て強制執行をすることもできます。
また、犯人の刑事処分を求めるのであれば、告訴も行うことが考えられます。特に、告訴を行う場合、犯罪事実の特定が必要となります。この作業は事実の調査だけでなく、事実を法的に構成する必要があります。これは法律の専門家である弁護士がもっとも適切に行うことができるでしょう。
起訴されても被告人が否認している場合、会社の役員や他の従業員が証人として出頭を求められることがあります。その際、検察官が証人予定者に証人テストを行いますが、弁護士の方でも会社の方々と事実関係を整理して、適切に証人尋問に対応していくことができます。
税務上の問題は税理士がやることだと思われがちですが、弁護士が法律問題を整理することで、より適切に処理することができます。
このように、弁護士は会社内の不正事件について最初から最後まで強力に支援することができます。
会社内で不正の疑いがあるときは、無理に自分たちだけで処理しようとせず、まずは弁護士に相談することをお勧めします。