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損害賠償命令制度について
犯罪被害にあった場合に、加害者への賠償請求について、損害賠償命令制度の利用が考えられます。
今回は、損害賠償命令制度について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説いたします。
損害賠償命令制度とは

損害賠償命令制度は、一定の犯罪について、刑事事件が係属している地方裁判所に対し、損害賠償請求についての審理・裁判を求めることができる制度です。
刑事事件で被害を受けた人でも、その賠償を裁判で求めるには、刑事裁判ではなく民事裁判で訴える必要が原則としてあります。
そうすると、裁判のために時間も費用も掛かってしまい、泣き寝入りせざるを得ない被害者が出てきます。
その負担を軽減するために、刑事裁判でも賠償請求ができるのが損害賠償命令制度です。
「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」に規定されております。
申立手数料が2000円で民事裁判と比べて安く、刑事訴訟記録がそのまま証拠として利用でき、比較的短期間で終わるため、被害者のメリットは大きいです。
対象犯罪
対象となる犯罪は、以下のとおりです。
1 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪又はその未遂罪(強盗殺人、殺人、傷害、傷害致死、遺棄等致死傷、不同意わいせつ等致死傷、強盗・不同意性交等致死、強盗致死傷、逮捕等致死傷、危険運転致死傷等)
2 不同意わいせつ、不同意性交等、監護者わいせつ及び監護者性交等の罪又はその未遂罪
3 逮捕及び監禁の罪又はその未遂罪
4 未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等の罪又はその未遂罪
5 2から5までに掲げる罪のほか、その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪又はその未遂罪(強盗・不同意性交等,特別公務員職権濫用等)
被害者参加事件とは異なり、過失犯は除かれております。
対象犯罪となるのであれば、加害者との賠償交渉の過程で、損害賠償命令制度の利用の可能性を考慮に入れながら対応していくことになります。
手続き
申し立てができるのは、被害者本人又は被害者が死亡した場合の相続人です。
相手は、対象犯罪に係る刑事被告事件の被告人に限られ、共犯者や使用者は除かれます。
申立ての時期は、対象となる刑事被告事件の公訴提起時から、弁論終結時までです(刑事事件の流れはこちらを参照ください。https://osaka-keijibengosi.com/keiziziken_flow/)。
被告人に対して有罪の判決があった場合、直ちに損害賠償命令事件の審理が開始されます。
刑事事件を担当した裁判所が、刑事記録を取り調べ、原則として4回以内の期日で簡易迅速に手続が行われます。
審理は、基本的に非公開で行われます。
裁判所を交えた話し合いにより、和解で終わることもあります。
4回以内の期日で終わらない場合や、損害賠償命令の申立てについての裁判に対して異議の申出があった場合等は、通常の民事裁判に移行します。
損害賠償命令制度の利用をご相談ください
この損害賠償命令制度についても、利用するかどうか、どのような内容の請求をするかは,高度な判断が求められます。
起訴前や判決前に加害者から示談・被害弁償の意向を示された場合、被害者の加害者に対する処罰意思の強さや賠償金へのこだわりや賠償金以外について求めることがあるか、等を総合的に判断して対応することになります。
出来るだけ重い刑事処分を受けてほしいので賠償金は一切受け取らないのか、出来るだけ重い刑事処分を受けてほしいが賠償金は受けたいのか、賠償金さえ受けられれば示談に応じてもいいと思っているのか、等の考えは個々の被害者によって考えは異なります。
加害者の支払い能力の問題も考慮しなければなりません。
加害者が異議を出してきたら、民事裁判に移行しますので、その可能性も考慮して対応しなければなりません。
損害賠償命令制度をどのように利用するかは、精通した弁護士とよく相談して検討することになります。
ぜひ、損害賠償命令制度も含め、被害者の方は当事務所に相談・依頼してください。
不同意わいせつ罪の被害を相談。被害届の受理や示談交渉といった弁護士による被害者支援
不同意わいせつ罪の被害に遭ってしまった場合、弁護士が行える被害者支援について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

参考事件
Aさんは職場の上司であるBさんに誘われ、仕事終わりに2人で食事に出かけました。Aさんは出先で泥酔してしまったBさんをタクシーに乗せようとしましたが、その際にBさんから不意に抱き着かれました。
(この参考事件はフィクションです)
不同意わいせつ罪
参考事件でAさんがBさんにされた抱き着くという行為は、不同意わいせつ罪(刑法176条)に該当する可能性があります。不同意わいせつ罪に関する規定は、令和5年の刑法改正によって新設されています(詳細については個別記事をご覧ください。https://osaka-keijibengosi.com/rape/)。
刑法が改正される前は、わいせつ行為を罰する規定として、強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪が存在していました。もっとも、強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪が適用されるには、単にわいせつ行為があっただけでは足りず、加害者による暴行や脅迫の事実、被害者の心神喪失や抗拒不能が証明される必要がありました。また、たとえ暴行や脅迫があった事実を証明できたとしても、その暴行や脅迫によって被害者の反抗が著しく困難になったという要件も求められていました。
そのため、わいせつ行為の被害に遭っていても、暴行や脅迫の事実やその程度に関する証明ができずに、警察で被害届が受理されない、検察官による起訴ができないといったケースも散見されました。
刑法改正により新設された不同意わいせつ罪は、このような弊害に対応すべく、①暴行や脅迫のように従来の強制わいせつ罪、準強制わいせつ罪でも捕捉できていた場合に加えて、新たに「同意しない意思を形成し,表明し又は全うするいとまがない」(刑法176条1項5号)、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させる」(同項8号)といった行為類型を追加して罰則の対象を拡大するとともに、②「同意しない意思を形成し,表明し若しくは全うすることが困難(刑法176条1項本文)」であれば犯罪が成立するようになっています。
それゆえ、従来の強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪では被害届の受理や検察官による起訴を断念せざるを得なかったケースでも、加害者を処罰できる可能性が拡大したといえます。
弁護士による被害者支援
もっとも、刑法176条は不同意わいせつ罪が成立する場合として複数の行為類型を列挙しているため、自分が受けた被害が果たして不同意わいせつ罪に該当するのかを判断するのは容易ではありません。警察に被害届を提出しようにも、不同意わいせつ罪の要件を満たしているかを意識して事情を説明しなければ、立件が困難だという理由で被害届が受理されないということにもなりかねません。
このような場合、弁護士による被害者支援を受けることが重要です。刑事事件の経験が豊富で、被害者支援にも長けた弁護士によるサポートを受けることができれば、被害届も受理されやすくなります。警察へ事情を説明しに行く際に、弁護士が同行することもできます。法的知識に基づいたアドバイスにとどまらず、犯罪被害に遭われた方の心情に配慮したサポートも期待できるため、一人ですべてを対応する場合と比べ、心強さには大きな差があります。
不同意わいせつ罪の罰則は「6月以上10年以下の拘禁刑に処する」と規定されています。つまり、加害者が刑事処分を受ける場合、必ず刑事裁判を行うことになります。刑事裁判の局面でも、弁護士が被害者の方をサポートできる場面は多岐にわたります。一例を挙げると、証人尋問や意見陳述のために出廷した被害者の方に同席する、判決を下す裁判官へ被害感情をしっかりと伝えるために書面の作成や代読を行うといったことが可能になります。また、検察官とのやりとりをスムーズに行う、加害者側の弁護人との示談交渉を行うといった、裁判外での対応もサポートできます。
刑事裁判が行われる場合、被告人(加害者)には必ず弁護人がつきます。これに対して、被害者には一定の場合を除き、自動的に弁護士がつくことはありません。しかし、法律の知識や制度の十分な理解がなければ、どのような手続が行われているかもよく分からないまま、気がついたときには加害者の処分が決まっているということにもなりかねません。弁護士による被害者支援の重要性はますます高まっているため、犯罪被害に遭ってしまった場合は、速やかに弁護士へ相談することが大切です。弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、犯罪被害に遭われた方へ向けた無料法律相談を実施しております。まずは弊所までお電話ください。
不同意性交等の被害に遭ったら
不同意性交等の被害にあった場合の対応方法などについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
不同意性交等とは
令和5年7月13日より改正刑法が施行され、これまで強制性交等と呼ばれていた犯罪が「不同意性交等」になりました。
不同意性交等罪は、これまで強制性交等として処罰されていた①暴行脅迫を用いた性交等に加えて、
②心身障害
③アルコールや薬物
④睡眠その他意識が明瞭でない状態
⑤同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと
⑥予想と異なる事態に直面して恐怖させ、又は驚愕
⑦虐待に起因する心理的反応
⑧経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益の憂慮
などの行為によって被害者が同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて性交等をした場合も処罰の対象となりました。
また、性交等には、陰茎を膣に挿入する性交行為だけでなく、口腔性交や肛門性交も含まれており、さらに、口腔、膣、肛門に身体の一部又は物を挿入する行為も含まれることになっています。
そのため、例えば治療と偽って器具を膣に挿入する行為も不同意性交等となります。
さらに、性交同意年齢が16歳に引き上げられました。
強制性交等の場合、13歳未満の児童に対して性交等をした場合には、仮に暴行脅迫を用いていなくても強制性交等となりましたが、不同意性交等では、16歳未満の子に性交等をした場合には、同意があったとしても不同意性交等になります。
なお、相手が13歳以上16歳未満の場合には、相手との年齢差が5歳以上ある場合が処罰対象となります。
不同意性交等の被害に遭ったら
不同意性交等の被害に遭った場合、被害者として取りうる方法は、大きく分けて二つあります。
一つが警察に被害届の提出や告訴を行い、刑事事件化することです。
もう一つは、加害者に直接損害賠償を請求することです。
この二つの方法は、いずれか一方を行うこともできますし、二つを同時に行うこともできます。
①刑事事件化する場合
刑事事件化する場合には、警察に被害届の提出や告訴を行うことになります。
被害届と告訴の違いは、加害者の処罰を明示的に求めるかどうかという点と、捜査を開始することが義務化されるかという点、検察官への送致が義務化されるかという点で異なります。
いずれの場合でも、警察に受理させるためにはそれなりの証拠が必要です。
たとえば、被害に遭った直後に親や友人に対して被害にあったことを相談していたり、産婦人科などの診察を受けていたりしているか、加害者との関係性ややり取りの内容などです。
こういった証拠を集めておかないと、警察はなかなか被害届などを受理してくれません。
そのため、警察に受理してもらえるように、十分な証拠を事前に集めておきましょう。
また、被害届が受理された後も事情聴取に協力したり、場合によっては刑事裁判に協力する必要もあります。
こういった証拠収集や事情聴取、裁判への対応については、専門家である弁護士に依頼して代理人として活動してもらうこともできます。
②損害賠償を請求する場合
加害者が誰かはっきりしている場合には、直接損害賠償を請求することができます。
いきなり民事裁判を起こすこともできますし、まずは話し合いで賠償を求めることもできます。
いずれの場合でも、加害者と直接対応するのは被害者にとってかなりの精神的苦痛を伴うものになりますので、弁護士に代理人として交渉等にあたってもらいましょう。
加害者から示談の打診があった場合
不同意性交等の被害に遭った場合に、加害者側から示談の打診があることがあります。
示談のメリットは、金銭賠償を早期に受けることができること、裁判で認められる賠償額よりも高額な賠償を受けられる可能性があること、様々な条件(接触禁止、口外禁止など)をつけることができることが挙げられます。
一方、デメリットとしては、示談が成立した場合、加害者側が罪に問われなかったり、受ける刑事罰が軽くなったりする可能性があります。
示談交渉においては、示談に応じるタイミングも重要ですし、その内容もしっかりと確認しないと思ってもいない不利益を受ける場合もあります。
また、交渉は加害者本人又はその代理人とすることになりますが、主張に食い違いがあったり、金額面や条件面で折り合いがつかなかったりして、交渉が長くなり二次被害を受けてしまう場合もあります。
そのため、示談交渉の打診があった場合には、被害者としても弁護士に依頼して交渉の窓口となってもらいましょう。
特殊詐欺
近年振り込め詐欺やキャッシュカードのすり替えなどが社会問題となっています。これらは特殊詐欺と呼ばれています。ここでは特殊詐欺について解説します。
特殊詐欺とは
特殊詐欺とは、電話等の非対面の方法で被害者を信じ込ませ、現金やキャッシュカードを騙し取ったり、犯人の口座に送金させる等して、不特定多数の者から現金等を騙し取る犯罪をいいます。
特殊詐欺の特徴としては、被害者とは直接対面することなく、電話等により被害者を誤信させることです。また、犯罪の種類としては、詐欺だけでなく、窃盗なども含まれます。
特殊詐欺の種類としては、以下のものがあります。
オレオレ詐欺
親族等を名乗り、「大事な書類の入った鞄を置き忘れた」「会社に損害を与えてしまいお金が必要」などと言って、現金を騙し取ったり脅し取る手口です。
預貯金詐欺
警察官や銀行協会職員等を名乗り、「あなたの口座が犯罪に利用されています。キャッシュカードの交換手続が必要です。」などと言って、暗証番号を聞き出し、キャッシュカード等を騙し取ったり脅し取る手口です。
架空料金請求詐欺
有料サイトやサービス料金等をうたい、「未払いの料金があります。今週中に支払わなければ法的手続きを取ります。」などと知らせ、犯人指定の口座に振り込ませたり、電子マネーを購入させて番号を聞くなどして、金銭等を騙し取ったり脅し取る手口です。
還付金詐欺
医療費、税金、保険料等をうたい、「還付金の返還のため手続きが必要です」等と言い、被害者にATMを操作させて被害者の口座から犯人の口座に送金させるなどして、不法な利益を得る手口です。
キャッシュカード詐欺盗
銀行協会職員等を名乗り、「あなたのキャッシュカードが犯罪に利用されています。職員がキャッシュカードの確認に伺います。」などと言い、キャッシュカードを準備させ、隙を見て偽物のカードとすり替える等して、キャッシュカード等を窃取する手口です。
融資保証金詐欺
電話やはがき、DM等で、実際には融資しないのに、「無担保、低金利、保証人不要」など簡単に融資が受けられると信じ込ませ、融資を申し込んできた人に対して「保証金が必要です」などと言って金銭等を騙し取る手口です。
金融商品詐欺
電話やはがき、DM等で、価値が全くない株や物品について嘘の情報を教え、購入すれば儲かると信じ込ませ、購入代金として金銭等を騙し取る手口です。
ギャンブル詐欺
雑誌やインターネット記事に「パチンコ、パチスロ必勝法」「パチンコ打ち子募集中」したり、電話やDM等で、「宝くじに当選しました」等と連絡を入れ、会員登録が必要等と言って、登録料や情報料として金銭等を騙し取る手口です。
交際あっせん詐欺
「女性紹介」等と雑誌に掲載したり、「交際相手を紹介します」といったDMを送り、利用を申し込んできた人に、会員登録料や保証金等として、金銭等を騙し取る手口です。
強盗
特殊詐欺の手口を用いた強盗が多発しています。消防の点検や銀行員の訪問予約等と偽って被害者が自宅にいるようにして、正規の訪問だと思って応対した被害者を脅して、金銭等を強取手口です。予約を装った電話では、在宅の有無の他、家族構成や住人がいる時間、資産状況やその場所なども聞いてきます。
特殊詐欺の特徴
特殊詐欺は、上記のように非対面で相手を信じ込ませて行う犯罪です。特殊詐欺に特徴的なものとして以下のものがあります。
かけ子
不特定多数に電話をかけて被害者を信じ込ませる役割を担います。
受け子
現金を受け取りにったり、キャッシュカードをすり替えるために被害者宅を訪問する役割を担います。その後現金やキャッシュカードをロッカーに入れたり別の者に渡すことも行います。
アポ電
事前にかけ子が警察、消防、銀行協会の職員等と偽って被害者に電話をかけ、予め銀行員等が訪問する時間を予約して、被害者が自宅にいることを確保して、さらなる特殊詐欺や強盗につなげるものです。アポ電では、訪問の予約の他、家族構成や住人がいる時間、資産状況やその場所なども聞いてきます。
特殊詐欺の被害に遭ったら
特殊詐欺の被害の回復
特殊詐欺の被害を受けた後で、特殊詐欺の犯人を捕まえるのは容易ではありません。
捕まったとしても、たいていは受け子です。これらは被害金額に比して低い報酬しか受け取っていないことが多く、被害者も複数に上ることが多々あります。そのため、一人の被害者が受け子から回収できる損害賠償金額は少なくなってしまいます。犯人の家族が賠償に協力することはありますが、それでも被害金額の全額が返ってくる保障はありません。
暴対法による救済
特殊詐欺により逮捕された受け子などが暴力団の構成員である場合は、暴力団の代表者等に対し損害賠償請求できる可能性があります。
暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)第31条の2では「指定暴力団の代表者等は、当該指定暴力団の指定暴力団員が威力利用資金獲得行為(当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為をいう。以下この条において同じ。)を行うについて他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」(第1項本文)と定めています。この規定により、暴力団員が暴力団のしのぎ(資金獲得活動)として、携帯電話等の設備の準備や受け子の手配など特殊詐欺に関わり、被害者に財産的な損害を与えた場合は、指定暴力団の代表等に損害を賠償することができます。この暴対法により損害賠償請求が認められた事件もあります(東京地裁判決令和3年2月26日、最高裁第一小法廷決定令和3年9月9日等)。
もっとも、これも暴力団の関与が明らかな事案に限られ、たまたま暴力団員が受け子だっただけで暴力団の関与が明らかでない事案などでこれを用いて暴力団の代表の責任を追及するのはハードルが高いといるでしょう。
振り込め詐欺救済法による救済
特殊詐欺の被害者の救済策として、犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(振り込め詐欺救済法)に定める被害回復分配金の支払があります。これは、金融機関が、犯罪に利用されているとの疑いがある預金口座等の取引を停止し、公告を経て失権(預金等債権の消滅)させ、その残額分を原資として、被害者に被害回復分配金を支払うものです。
分配金の支払を受けるには、被害の申請が必要となります。
また、この法律は預金口座等に振り込んだ事件を対象とするものです。受け子に現金を手渡ししたり、キャッシュカードをすり替えられたり、現金を郵送したような場合は、この法律の適用は受けられません。
犯人の処罰
近年は特殊詐欺について厳罰化しており、受け子で前科がなくとも実刑となることが多いです。事件数や被害金額によっては10年近くの懲役刑になることもあります。
特殊詐欺を防ぐには
特殊詐欺の方法は複雑になってきており、思いもよらない方法で犯人グループが近づいてきます。それでも、特殊詐欺の被害を防ぐためにはいくつかの方法があります。
すぐに電話に出ない
特殊詐欺のかけ子は巧みな話術で話しかけてくるため、電話に出るとそのまま信じ込まされてしまうおそれがあります。
ナンバーディスプレイ機能の電話にして誰がかけてきたか分かるようにするのがよいでしょう。在宅時でも留守番電話設定にして、知っている相手にだけ折返しかけるようにするのが良いでしょう。通話相手に警告メッセージを出して通話内容を録音する機能が付いているものも効果的です。
通話相手に確認する
親族等を名乗って電話をかけてきたときは本当に本人がかけてきたのか確認しましょう。かけ子は電話番号を変えたなどと言ってくることもあるため、かけてきた番号へ直接折返すと、そのまま誘導されてしまうおそれがあります。折返しではなく、電話帳に登録している番号にかけましょう。
不自然な行動には対応しない
特殊詐欺では警察や銀行協会職員等社会的に信用性がありそうな職業を名乗ってやってくることが多いです。しかし、警察や銀行員がカードの確認などと言って自宅に訪問することはありません。また、コンビニ等で電子マネーのカードを購入させて、その番号を聞き出すことも行われますが、このような形で支払いを求める正規の事業者はいません。このような行動にはすぐには対応しないようにしましょう。本当の話かどうか警察等に電話をする手もありますが、かけてきた番号に折り返しをしてはいけません。必ず自分で調べた番号に書けるようにしましょう。
ハラスメントへの対策
会社内でのハラスメントが問題となってきています。
ハラスメントにより心身に酷い損害を被り、会社を辞めざるを得なくなるかもしれません。パワーハラスメント(パワハラ)をはじめとしたハラスメントの対策は今や企業の義務となっています。
ここでは、どのようなハラスメントがあるのか、ハラスメントにどう対応するべきかについて説明します。
ハラスメント対策義務化
パワーハラスメント(パワハラ)対策
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」)第30条の2第1項では「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と定めています。令和4年4月1日からは、中小企業も対象となり、すべての企業において職場におけるハラスメント対策が義務となっています。
そして、事業主は「優越的言動問題(第30条の3第1項に規定されている「労働者の就業環境を害する前条(第30条の2)第一項に規定する言動を行つてはならないことその他当該言動に起因する問題」のことを指します)に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。」(第30条の3第2項)、「事業主(その者が法人である場合にあつては、その役員)は、自らも、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。」(第30条の3第3項)、と定められています。労働者も「優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。」(第30条の3第4項)とされています。
その他のハラスメントの防止
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)は性別を理由とする差別を禁止する(第5・6条)のみならず、婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取り扱いを禁止しています(第9条)。そして、事業主に対し「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」(第11条第1項)、「職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」(第11条の3)、などと定め、セクハラやマタハラを防止することを求めています。
何が「ハラスメント」になるのか
ハラスメントには様々な形があります。
パワーハラスメント(パワハラ)
パワーハラスメントについては、前述の労働施策総合推進法第30条の2第1項に規定されており、職場において行われたもので、以下の要件をすべて満たすものをいいます。
①優越的な関係を背景とした言動
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③労働者の就業環境が害されるもの
「職場」とは、労働者が業務を遂行する場所を指し、会社の事務所に限らず、勤務時間外の懇親会や通勤中など職務の延長と考えられるものなど、労働者が業務を遂行する場所といえれば、「職場」に該当します。
「労働者」は、正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員などいわゆる非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用する全ての労働者をいいます。
「優越的な関係を背景とした言動」とは、業務を遂行するにあたって、当該言動を受ける労働者が行為者とされるものに対して、抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指します。上司から部下への言動や、その人の協力がなければ業務の円滑な遂行が困難な場合のその人の言動などがあたります。
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」ものとは、その言動が明らかに業務上必要性がない、またはその態様が相当でないものを指します。当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者の関係性等の様々な要素を考慮して決められます。もっとも、人格を否定するような言動は業務上必要かつ相当な範囲を超えたとしてパワハラに当たるでしょう。
「就業環境が害される」ものとは、当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
セクシャルハラスメント(セクハラ)
セクシャルハラスメント(セクハラ)とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをいいます。
「職場」とは、パワハラと同様、事務所など労働者が通常働いている場所のほか、出張先や自室的に職務の延長といえる宴会なども該当します。
「労働者」には正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員などのいわゆる非正規雇用労働者、派遣労働者も含まれます。
「性的な言動」とは、性的な内容の発言や性的な言動のことをいいます。性的な内容の発言としては、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容のうわさを流すこと、性的な冗談やからかいをすること、食事やデートへの執拗な誘い、個人的な性的体験談を話すことなどが該当します。性的な言動としては、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触れること、わいせつ図画を配布・掲示すること、強制わいせつ行為、強制性交行為などが該当します。
セクハラの行為者は、上司や同僚だけでなく、取引先や顧客もなりえます。性別に関係なく、被害者にも行為者にもなり得ます。異性間だけでなく、同性間でもセクハラとなり得ます。
妊娠・出産・育児休業等ハラスメント
マタニティハラスメント(マタハラ)、パタニティハラスメント(パタハラ)、ケアハラスメント(ケアハラ)などといわれます。
これらのハラスメントは、職場において行われる、上司や同僚からの、妊娠・出産したことや、育児休業、介護休業等の利用に関する等に関する言動により、妊娠・出産した女性労働者や育児休業・介護休業等を申出・取得した労働者の就業環境が害されることをいいます。
妊娠・出産を揶揄したり、育児休業の取得を妨げるような言動が該当します。
特に、妊娠・出産したことを理由として解雇したり、育児休業を取得したことを理由に降格させるような行為は「不利益取扱い」に該当し、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法違反となります。
一方で、育児休業の制度等の利用を希望する者に対して業務上の理由により変更の依頼や相談をすることや、客観的に見て体調の悪い妊婦の業務料を削減するなど、業務上必要な言動はハラスメントに該当しません。
ハラスメント相談
労働施策総合推進法第30条の2第2項では「事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」と定めています。
もっとも、会社によってはそもそも相談窓口を置いていないところも見られます。
また、相談しても大したことではないとかそれはパワハラではないなどと言って取り合ってくれないところもあります。さらに、相談しても他の人、ひどい場合には加害者に相談した事実を漏らすこともあります。
そうした場合は、会社内での解決にこだわるのではなく、外部に助けを求めるべきです。
各都道府県の労働局や労働基準監督署に総合労働相談コーナーが設置されています。
その他、各地の法テラスでも弁護士による相談を受け付けています。
ハラスメントの責任追及
ハラスメントによって心身に不調をきたしたり、退職せざるを得なくなってしまったときは、会社に対し、労働者への安全配慮義務を果たさなかったとして、損害賠償請求をすることが考えられます。
また、従業員である行為者の行ったハラスメントが不法行為に該当するのであれば、会社は使用者として損害賠償責任を負うことになります。
ハラスメントの内容が暴行・傷害や強制わいせつ、強制性交、名誉棄損などの犯罪に当たれば、行為者は刑事責任を問われることになります。
弁護士に相談
ハラスメントは労働者の修了環境を害しますし、ときには不法行為や犯罪に該当するものもあります。会社の相談窓口に相談しても、行為者に漏れてしまうのか心配があるかもしれません。
そうした時は、弁護士など組織外の専門家に相談することも考えましょう。弁護士には守秘義務があり、行為者や会社に秘密が漏れる心配はありません。
内容によっては、労働局など専門機関との協力、会社や行為者にハラスメントの防止の要求や損害賠償請求、刑事告訴などの手続に移行することもできます。
ハラスメントを受けているのではないかお悩みなら、弁護士への相談も考えてみましょう。
交通事故の損害賠償
交通事故に巻き込まれると、自動車が壊れる等自分の所有物が損傷させられることになります。また、被害者も負傷してしまうと、入院したり、通院したり、仕事を休まざるを得なくなってしまいます。治療が終わっても、後遺症が残ってしまうこともあります。酷い事故だと被害者が亡くなってしまうこともあります。こうしたときに、被害者やその遺族が、加害者に対してどのような責任を追及することができるのでしょうか。
ここでは、交通事故によって被害者が負傷したり、死亡した場合の損害賠償について、裁判所の基準による場合を解説します。
積極損害
交通事故により発生した損害です。
治療関係費
まず、入院や通院で要した治療費があげられます。必要がない治療や過度に高額な治療、事故で発生した傷害とは無関係な治療や不必要な特別室など、過剰、無関係な治療の費用については損害に含まれません。医師による特別の指示がある場合などは認められることがあります。また、将来の手術費や治療費などいまだ発生していない費用についても、発生する蓋然性が高い場合は認められることがあります。
付き添い費用
被害者に付添が必要な場合、被害者の近親者や職業付添人の付き添い費用も損害に含まれます。
将来の介護費用
将来の介護費用についても、医師の指示又は症状の程度により必要があれば損害として認められます。
雑費
おむつや装具、など入院・治療に必要かつ相当な雑費も損害に含まれます。入院雑費は1日につき1500円とされています。
交通費・宿泊費
通院に要する交通費も損害に含まれます。基本的に電車やバスの料金になりますが、症状によりタクシー利用が相当とされる場合はタクシー代も認められることがあります。被害者本人のほか、近親者の交通費や宿泊費も認められることがあります。
学生の学費等
被害者が学生や幼児等の場合、塾の費用や補習の費用、学校等へ行く際の近親者の付き添い費用が認められる場合があります。
装具・器具等購入費
交通事故によって義歯、義眼、義手、義足等の装具・器具が必要となった場合、これらの購入費も損害に含まれます。交換が必要なものだと将来の交換費用も含まれる場合があります。
家屋・自動車等改造費
交通事故で受けた障害により生活を改めざるを得ず、自宅の家屋の立替・改装や自動車等を改造せざるを得なくなった場合、これらの費用が損害として認められることもあります。
葬儀費用
交通事故で被害者がなくなった場合、葬儀費用も損害となります。
その他に、診断書等の文書料や成年後見開始の審判手続費用、弁護士用等も損害に含まれます。
消極損害
交通事故がなければ得られたであろう利益は消極損害と呼ばれます。大きく分けて、休業損害、後遺障害による逸失利益、死亡による逸失利益があげられます。
休業損害
交通事故での受傷によって休業した場合、現実に収入が減少した分は休業損害として認められます。有給休暇を使用した場合でも休業損害と認められます。増額や昇給が見込まれる場合、その金額を考慮して決められる可能性があります。
専業主婦等の家事従事者については、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎として決められます。
無職者の場合は、就労の可能性があれば認められることもあります。
後遺症による逸失利益
交通事故により後遺症が発生すると、労働能力が低下して従前のように働くことは困難となり、収入の減少が予想されます。これにより失われるであろう利益については、逸失利益として損害に含まれます。
逸失利益算定の基礎となる収入は、原則として事故前の現実の収入です。
労働能力の低下については、自動車損害賠償保障法の別表の後遺障害別等級表・労働能力喪失率表を参考として、被害者の職業、年齢、性別、後遺症の部位、程度、事故前後の稼働状況等を総合的に判断して、労働能力喪失率が決められます。
労働能力が低下する期間である労働能力喪失期間は、始期は症状固定日、終期は原則として67歳とされています。
損害賠償請求をすると、上記の労働能力喪失の終期までの分を、請求した時に得られることになります。この金額をその後も運用できるとすると、利息分本来の喪失分より多くの利益を得てしまうことになるため、「中間利息控除」として、増額する利息分を控除します。中間利息の控除はライプニッツ式とホフマン式がありますが、現在はライプニッツ式が主流です。なお、民法の規定により、中間利息の控除は、損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により決められます(民法第417条の2第1項)。令和2年4月1日以降は年3%です。法定利率は3年毎に見直されます。
逸失利益の計算は、「基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」により行われます。
一方で、この損害賠償金額は高額になることが予想されます。特に被害者が重い障害を負ったり亡くなったりしたときは、莫大な金額になります。
死亡逸失利益
被害者が死亡した場合も逸失利益が損害として認められますが、事故後も生活に費用が掛かる後遺症と異なり、生活費分が控除されます。
逸失利益の計算は、「基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」により行われます。
逸失利益算定の基礎となる収入は、原則として事故前の現実の収入です。年少者については、以前は男女別の全年齢平均賃金を基礎にしていましたが、最近は女子年少者については男女計の全労働者の全年齢平均賃金を基礎にするのが一般的です。
生活費控除率は「一家の支柱」(その者の収入を主として世帯の生計を維持している者のことです)の場合は、被扶養者の数によって異なってきます(被扶養者一人の場合は40%、二人以上の場合は30%が一般的です)。女性は独身、主婦、幼児等含めて30%、男性は50%とされています。最近は女子年少者については、基礎となる収入と同様に男女差が解消されつつあり、生活費控除率は40~45%とされているものも多くなっています。
就労可能年数は原則として67歳までとされています。
慰謝料
積極損害や消極損害のほか、精神慰謝料も損害に含まれます。
死亡の場合は、次の金額が基準となりますが、具体的な事由により増減されます。
一家の支柱 2800万円
母親、配偶者 2500万円
その他 2000~2500万円
傷害の場合は、原則として入通院期間を基礎として定められます。
例えば、入院2か月だと101万円、入院1か月・通院3か月だと115万円となります。
後遺症がある場合は、原則として次のように等級によって決められます。重度の後遺障害の場合には、近親者にも認められることがあります。
第1級 2800万円、第2級 2370万円、第3級 1990万円、第4級 1670万円、第5級 1400万円、第6級 1180万円、第7級 1000万円、第8級 830万円、第9級 690万円、第10級 550万円、第11級 420万円、第12級 290万円、第13級 180万円、第14級 110万円
加害者に故意若しくは無免許、ひき逃げ、酒酔い、著しいスピード違反、殊更な信号無視、薬物等の影響により正常な運転ができない状態での運転等重過失がある場合、著しく不誠実な態度がある場合は、これらの慰謝料が増額することもあります。
物損
交通事故により自分の運転する車両が損壊などされた場合、適正な修理費相当額が損害として認められます。修理費が車両の時価額に買い替え諸費用を加えた金額を上回る場合は、経済的全損となり、時価相当額と買い替え諸費用が損害と認められます。買い替えをすることが相当と認められる場合には、事故時の時価相当額と売却代金の差額が損害と認められます。修理しても外観や機能に欠陥が生じるなど商品価値の下落が見込まれる場合は評価損も損害と認められます。
買い替えのために必要となった登録費用などの登録手続き関係費用についても損害と認められます。
修理や買い替えの期間中にレンタカーなど代車を利用した場合には、これも損害に含まれます。営業車両で他に代替ができない場合は、休車損も損害として認められます。
その他、レッカー代や保管料などの雑費も損害に含まれます。
車両の他に損壊された物についても同様に、修理費や廃棄費用、購入価格相当分等が損害として認められます。
遅延損害金
事故日から遅延損害金が発生します。利率は時点における法定利率により決められ、令和2年4月1日以降は年3%です。法定利率は3年毎に見直されます。
減額される事由
損益相殺
交通事故に起因して被害者本人やその相続人が利益を得た場合、その金額分損害が補填されたとして、損害賠償額から控除されることがあります。
自賠責で受け取った損害賠償金、労災保険の休業補償給付金等が控除されます。これらは、上記の損害と同一の利益が既に得られているといえるからです。一方で、労災保険法に基づく特別支給金や私的な生命保険など、同一とはいえない利益は控除されません。
素因減額
被害者に児湯の事情により損害が拡大したと言える部分については「素因減額」されます。素因は、被害者の精神的傾向である心因的訴因と、既往の疾患や身体的特徴などの体質的・身体的訴因とに分類されています。どれだけ減額されるかは、具体的事案毎に個別に判断されます。
同乗事故
運転手が事故を起こして同乗者が負傷した場合、同乗者も事故の被害者として損害賠償請求権を有します。加害者の運転する車両に同乗していたからといって当然に賠償額が減額されることはありませんが、飲酒していることを承知で同乗するなど被害者側にも落ち度があると判断されると、減額されることがあります。
過失相殺
過失相殺については、自動車対歩行者、四輪自動車同士、単車同士、単車対自動車、自転車対自動車、横断歩行者の事故、という類型毎に基準が定められています。
例えば、自動車と歩行者の事故で、横断歩道上で、車信号が青、歩行者信号が赤で、住宅・商店街での事故で、歩行者が児童や老人である場合、過失割合は50:50となります。
信号機のない交差点で、広路の直進四輪自動車と狭路から広路に右折した四輪自動車との衝突事故で、直進車に15㎞以上の速度違反があった場合、過失割合は直進車と右折車とで30:70となります。
弁護士に相談
このように、損害賠償金額の算定は非常に複雑な要素があり、相手方との和解交渉や訴えの提起、そのための資料の準備は用意ではありません。
こうしたことに適切に対処するためには、専門家である弁護士に早期に相談することをお勧めします。
交通事故に遭ったら
交通事故の被害に遭ったら
交通事故に遭ったら、まずは相手方を確認しましょう。本人の容姿や名前だけでなく、車の方も車種やナンバーを確認しましょう。
自分自身が大した怪我をしていなかったり、自車の損傷が軽微であっても、その場で話し合って立ち去るようなことは避けるべきです。後日後遺症が発生しても追及することが困難になります。また、交通事故を起こした加害者が警察に事故を報告しないこともあります。警察に報告をしたのを確認し、警察や救急がくるのを待つべきです。
警察や救急が来た後は、その指示に従いましょう。怪我をしていないのであれば、そのまま現場検証をすることもあります。相手方の名前や連絡先、保険会社についても確認しておくべきです。
物損か人損か
交通事故に遭ったときでも、車や工作物が損壊しただけで人には被害が出ていない物損か、人も死傷している人損かによって、扱いが異なってきます。
人損の場合は、加害者側は過失運転致死傷の刑事事件の被疑者としても扱われます。
一方で、物損の場合は、過失運転致死傷罪は成立しないため、刑事事件の加害者とはなりません。飲酒運転や事故報告義務違反など他の規定の違反があれば当該事件の被疑者とはなりますが、事故の相手方が被害者となるわけではありません。
民事―損害賠償
交通事故によって自分の車を損壊されたり、あるいは被害者が負傷したり亡くなったときは、被害者やその遺族は、加害者に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有します。
自賠責保険
自賠責は自動車損害賠償保障法によって全ての自動車に契約が義務付けられています。これは人損の場合に適用され、人の死傷がない物損事故には適用されません。
自賠責保険で支払われる支払限度額はあらかじめ決まっています。傷害による損害については120万円、死亡による損害については3000万円です。後遺障害による損害にも支払われ、神経系統の機能または精神・胸腹部臓器に著しい障害を残し、介護を要する傷害で、常時介護を要する第1級の場合は4000万円、随時介護を要する第2級の場合は3000万円となっています。その他の後遺障害では、等級によって3000万円から75万円支払われます。
任意保険
加害者側が任意保険に加入している場合、任意保険からも支払が行われます。対物も対象となっている場合、物損事故についても保険金が支払われます。
よく「対人対物無制限」という表現がなされますが、この場合でも被害者が望む損害賠償額全額が支払われるわけではなく、あくまで保険会社の算定基準に従って支払われます。
損害賠償
保険でも損害の回復に十分でない場合は、加害者本に対し損害賠償請求をすることになります。
多くの場合、いきなり訴えを提起するのではなく、まずは加害者と話し合いをすることになります。加害者と損害賠償について合意した場合、和解(示談)をすることになります。当事者同士の話合いで解決しなかった場合、調停など第三者の協力を求めることになります。
このような方法を用いても解決しない場合、訴えを提起し、裁判所による判断を求めることになります。
裁判ではけがの程度や入院・通院日数、後遺症の等級などを基準に損害賠償額が算定されます。裁判所もこれまでの裁判の結果を蓄積してつくられた算定基準によって損害賠償額を算定しますが、基本的に保険会社の算定する金額より高額になります。
刑事―捜査・裁判
交通事故を起こした加害者は、道路交通法や「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(「自動車運転処罰法」などと略されます)に違反したとして刑事事件の被疑者・被告人ともなります。被害者もこの刑事事件の捜査や裁判に関わることになります。
捜査
交通事故を起こした場合、加害者が飲酒をしていたり、被害者の怪我の程度が大きかったり亡くなったりしたときは、加害者が逮捕されることもあります。もっとも、その後勾留されずに釈放されることも多いです。
勾留された場合は逮捕も含めて最大23日の中に検察官が加害者を起訴するかどうか判断し、起訴するのであれば、勾留満期までに起訴します。
一方で、勾留されなかった場合、このような時間制限はありませんので、捜査は長期化することになります。概ね6か月ほどで検察官は終局処分をしますが、1年以上かかることも珍しくありません。終局処分の前に被害者又は被害者の家族・遺族が検察官から取り調べを受け、加害者に対する処罰感情の確認などがされます。
示談
加害者の依頼した弁護士(弁護人)から、保険金とは別に加害者が損害賠償金を支払って示談することを求められることもあります。この場合、示談書を交わして示談することになるでしょう。この示談は、上記の民事における示談(和解)示談書においては、謝罪や示談金の支払のほか、「この示談により本件事故についてお互い債権債務を有しない」「今後本件について損害賠償を求めない」などといった文言(清算条項)が付されることになります。また、「加害者を許す」「寛大な処分を求める」といった文言(「宥恕条項」といいます)を付けることも求められます。
示談締結や示談における宥恕の有無は、検察官の終局処分を大きく左右します。検察官としては、被害者の損害が回復したかどうか、被害者が処罰を求めているかを重視するからです。
公判
示談の有無や被害者の処罰感情にもよりますが、全治2週間以上の怪我を負わせた場合は、加害者が公判請求される可能性があります。
過失運転致死傷事件や危険運転致死傷事件のように被害者に甚大な被害を与える事件では、被害者や遺族、その依頼を受けた弁護士が、公判手続きに参加することができます。
公判手続きでは、証人に対して情状に関する事項について、尋問することができます。
また、事実又は法律の適用について意見を陳述することができますし、そのために被告人である加害者に対し被告人質問をすることができます。
また、加害者が被害者側に落ち度があるとか、自分に過失はないなどと主張することもあります。この場合、被害者が証人として出廷し、加害者である被告人の弁護人の反対尋問を受けることになります。
弁護士への依頼を考える
以上のように、交通事故が起きると、被害者も民事・刑事という大変負担のある手続に巻き込まれることになります。これに適切に対応するためにも、弁護士への依頼を考えるべきでしょう。
弁護士に依頼することで、次のような局面で役に立つでしょう。
適切な保険金の受取
加害者側の任意保険による支払いについて保険会社に任せたままだと、保険会社の算定基準により保険金額が決まってしまいます。被害者や遺族が不満を述べても、保険会社の担当者は経験豊富であり、難解な説明や慣例などを述べて、被害者側の主張が退けられることが多々あります。
しかし、弁護士が担当することで、裁判所の算定基準によるなど、被害の実態に合ったより高額な保険金の支払いを受けられる可能性があります。
適切な示談の対応
被害者側から加害者側に損害賠償を請求する前に、加害者側の弁護士から示談を求められることがしばしばあります。事故のことを忘れたいからと早急に示談に応じてしまうと、後遺障害の慰謝料も含めて債権債務が存在しないかのような清算条項にされてしまったり、意味も分からず宥恕文言を書いてしまい、加害者を許したかのようにされてしまう可能性があります。
弁護士が示談の対応をすることで、後遺障害が発生した場合は別途合意をする等、損害を回復するために適切な条項を設けることが期待できます。また、示談はするがやはり加害者を許せない場合、「処分については裁判所にゆだねる」など宥恕条項を入れずに示談を締結することができます。
民事裁判対応
加害者側と交渉しても解決できなかった場合、損害賠償請求をすることになります。慰謝料や逸失利益、後遺障害慰謝料などを請求することになります。このときには、休業損害や、入院・通院だけでなく、事故により労働能力が喪失し将来得るはずの利益が失われた分を計算し、これらの損害が発生した証拠を示す必要があります。このようなことを日常生活に復帰しながら行うことは非常に厳しいでしょう。こうしたことは法律の専門家である弁護士に依頼することでより適切に対応することが期待できます。
刑事裁判対応
刑事裁判においては、被害者やその遺族だけでなく、被害者から委託を受けた弁護士も、被害者参加をすることができます。証人への尋問や被告人質問、意見陳述において、被害者や遺族の思いを反映させて裁判所に示すことができます。
また、被告人が事件について争っているため被害者が証人として出廷する際は、検察官が証人テストを行いますが、弁護士も被害者や遺族と事前に打合せを行います。被告人の弁護人は、被害者側に落ち度があることを示そうと厳しい尋問をしてくることが予想されますが、このような尋問にも冷静に対応できるよう準備をすることができます。
このように、弁護士に依頼することで、各局面において適切に対応することが期待できます。
交通事故に遭われたら、まずは弁護士に相談することをお勧めします。
会社内での不正事件
不自然な支払いが繰り返されていたり、書面もないのに莫大な額の金銭の動きがあったりすると、会社のお金が不正に使用されている可能性があります。このようなときはどうすればよいでしょうか
会社内における不正行為への対応
犯人・被害の特定、調査
会社内で不正が生じた場合、被害の継続を阻止し、犯人を特定し、被害額を特定する必要があります。その際、証拠隠滅などされないよう、調査を進める必要があります。関係のある部署の既存メンバーにアクセスを禁じるなどの対応も必要となるでしょう。会社内での権限や事務手順、金銭の流れなどから、犯人を絞り込むことが期待できます。
犯人が自ら不正の事実を認め、休職等により現場を離れ、調査に協力してくれるのであれば、被害の継続の阻止や、犯人や被害の特定は進むでしょう。
一方で、不正を行ったと十分疑える証拠があっても、本人が自分はそのようなことをしていないと反論する可能性もあります。その場合、証拠隠滅がされないよう調査を進め、反論を考慮してもやはり犯人だといえる証拠があれば、弁護士に相談したり、警察等の捜査機関による捜査を求めることを検討する必要があります。
時効の問題
不正を行った犯人や被害額が特定できても、すべての被害金額を回収できるとは限りません。不正から時間が経っている場合は、時効の問題が生じるため、早急に対応する必要があります。
民事においては横領等の不正も不法行為であり、会社側は不正をした者に対し損害賠償請求権を有します(民法第709条)。これは損害および加害者を知った時から3年間、不法行為の時から20年間、行使しなければ時効によって消滅します(民法第724条第1号第2号)。20年以上前の不正については請求することはできなくなります。また、損害の実態や不正をした者を把握しても、返還交渉中に時効が成立する可能性がありますので、債務を承認させたり(民法第152条第1項)、訴えを提起して裁判上の請求をする(民法第147条第1項第1号)など、時効が完成しないようにする必要があります。
刑事においては、時効期間はより短くなっています。業務上横領や電子計算機使用詐欺など長期10年の懲役という重い罪が成立する場合であっても、公訴時効は7年です(刑事訴訟法第250条第4号)。したがって、7年以上前の不正使用については罪に問うことはできないのです。公訴を提起すれば時効は停止します(刑事訴訟法第254条第1項)ので、刑事処分を求めるつもりであれば、早急に警察や検察に被害を届け出て処罰を求める必要があります。
民事手続
不正を行った者に対しては不法行為に基づく損害賠償請求をすることが考えられます。もっとも、裁判自体裁判費用や弁護士費用がかかりますし、時間もかかります。そのため、不正を行った者が自発的に事実関係を認めて弁償するのがもっとも負担が少なく損害を回復することができるでしょう。また、後述する刑事手続で不正を行った者に実刑判決が下されると、その者は収監されてしまうため、弁償も期待できなくなります。そのため、警察に被害届をする前に、まず相手方が自発的に支払えるよう和解(示談)交渉することが有益です。
和解の内容は和解契約書・示談書といった形で書面に残して記載するべきです。また、万が一相手方が支払いを怠ったときは直ちに強制執行できるよう、公正証書に強制執行認諾文言を記載する形にしておくのが良いでしょう。
交渉に当たっては、上記のとおり時効が完成しないように注意する必要があります。また、仕事を続けさせたり、分割払いを認めるなど、現実的に被害金額の回収が可能な内容にするのが良いでしょう。一方で、不正を行った者が弁償できない場合やするつもりがない場合、被害届や告訴など刑事手続に移行することも検討するべきです。
刑事手続
会社内の不正行為といっても、犯人の地位や立場、行為の態様によって、成立する犯罪が違ってきます。業務上横領、詐欺、電子計算機使用詐欺、など様々な犯罪が想定されます。
特に、警察に告訴をする際には、被害者側において、犯罪事実を特定する必要があります。犯人(告訴の際は「被告訴人」といわれます)が会社内においてどのような地位にあったか、どのような権限・責任を有していたか、どのような業務を行っていたか、といった事実を詳細に記載する必要があります。また、不正の証拠や、被害額を特定できる資料も同時に提出するべきです。
被害金額が100万円以上だと、不正を行った者(被疑者)が逮捕される可能性があります。被疑者が逮捕されると、続いて勾留されることが多いです。逮捕と勾留は通算して最大23日までで、それまでに検察官が被疑者を起訴するか否かを決めます。勾留期限の満期までに被疑者が被害額全額を弁償すれば処分保留あるいは起訴猶予で釈放されることはありますが、そのようなことがなければ起訴されるでしょう。起訴の際の被害額は、検察官が証拠により特定できた金額、時効が成立していない罪についての金額となります。そのため、会社自身が特定した被害金額全てについて起訴されるとは限りません。
起訴された被告人が事実関係を認めている場合、公判における審理は1回で終わり、次回で判決となることが多いです。被害金額が500万円以上で弁償できていないと、前科がなくても実刑となる可能性があります。
一方で、被告人が事実関係を争うと、公判は長期化する可能性があります。経理担当者や役員が証人として出廷し、被告人の弁護人から反対尋問を受けることもあります。
税務上の処理
不正を行われた結果、会社のお金が減ったことになりますが、税金は全く変わらず課せられるのでしょうか。
不正利用により会社に損失が発生していますので、当該損失が生じた事業年度の損金の額に算入するとされています。一方で、これにより不正を行った者に対して損害賠償請求権を有することになるため、これを益金として計上することになります。この損害賠償請求権は相手方との和解等による合意や訴訟等によりその額が決した事業年度の益金の額に算入するとされています(異時両建説)。
もっとも、不法行為の相手方が会社外の者(「他の者」)ではなく会社の役員や使用人である場合は、損害賠償請求権も損失が発生した事業年度の益金に算入するという説もあります(同時両建説)。
弁護士への相談
このように、会社の金が不正に使用されていた場合、被害について調査するにも回復するにも大変な労力が必要となってきます。これを会社の通常業務を行いながら進めていくというのは困難です。
こうした場合、早期に弁護士に依頼することも考えるべきでしょう。
弁護士に依頼することで、会計資料の調査や関係者のヒアリングを行い、犯人や被害額の特定を進めることができます。
その後は、犯人と和解交渉をして被害金額の回収を図ることができます。任意に弁済できなかった場合、訴えを提起し、判決を得て強制執行をすることもできます。
また、犯人の刑事処分を求めるのであれば、告訴も行うことが考えられます。特に、告訴を行う場合、犯罪事実の特定が必要となります。この作業は事実の調査だけでなく、事実を法的に構成する必要があります。これは法律の専門家である弁護士がもっとも適切に行うことができるでしょう。
起訴されても被告人が否認している場合、会社の役員や他の従業員が証人として出頭を求められることがあります。その際、検察官が証人予定者に証人テストを行いますが、弁護士の方でも会社の方々と事実関係を整理して、適切に証人尋問に対応していくことができます。
税務上の問題は税理士がやることだと思われがちですが、弁護士が法律問題を整理することで、より適切に処理することができます。
このように、弁護士は会社内の不正事件について最初から最後まで強力に支援することができます。
会社内で不正の疑いがあるときは、無理に自分たちだけで処理しようとせず、まずは弁護士に相談することをお勧めします。
子供の性被害
子供の性被害が多発
近年、子供に対する性被害が多発しています。
もっとも、これは最近になって急増したのではなく、発覚する事件が増えたことも一因といえます。これまで子供に対する性被害があまり発覚しなかったのは大人とは違う子供ゆえのいくつかの原因があります。
子供自身が被害を受けたことを自覚していない
子供は性被害を受けても、自分が被害を受けたとは認識していないことが多いとされています。
子供は知識が十分ではなく、自分が何をされているか理解できていないことが多いです。
また、大人がしていることなので、悪いことではないだろうと受け止めることもあります。保育園や学校の先生、親戚の人など信頼している大人にされた場合は、よりこのように受け止めるでしょう。
大人に訴えても聞き入れてくれない
子供でも性被害を受けて違和感を感じたり、気持ち悪いと思い、親や先生といった身近の大人に相談することがあります。そうしたときでさえ、親や先生は「何かの間違いだ」「大したことじゃない」などと言って子供の訴えを否定することがしばしば見受けられます。大人からすれば、子供は未熟だと思っているので、子供の勘違いだと思うのでしょう。また、知り合いや学校の教師など信頼できる立場の人が子供を性の対象にしたり、性犯罪のようなことをするはずがないと思い込むこともあります。特に深刻なのが、パートナーが再婚相手の子供に対して性加害をした場合です。このようなときでも、一家の離散を避けるために被害がなかったようにするでしょう。こうした対応をされてしまうと、子供もおかしいと思っても相談しなくなってしまいます。
捜査が進まない
親などが子供の訴えを聞いて、警察に被害届けを出したとしても、捜査が進展するとは限りません。
大人が被害者の場合にも当てはまりますが、性加害は周囲に誰もいないような状況で行われることが多いです。そのため、警察も当事者である子供を取り調べてその話を聞かなければなりません。これは大人でも大変苦痛を伴うものです。子供にはより厳しい苦痛となるでしょう。
また、被害を受けた事実を正確に認識し、記憶したうえで、供述することは容易ではありません。ショックでそもそも被害状況を覚えていないことがありますし、被害のショックを和らげるために無意識のうちに記憶を変容させていることもあります。被害事実を正確に記憶していたとしても、聴き取りをする人が正確に認識できるよう供述することは非常に難しいことです。子供が供述するとなると、一層困難でしょう。そのため、何度も取り調べを繰り返すことになり、被害者であるはずの子供にはさらなる負担となってしまいます。このような負担を避けるため、警察への被害届を断念することもあります。
このようにして苦労して被害者の供述が取られたとしても、これで犯人を処罰できるとは限りません。被害者供述が信用できるものでなければ、証拠として不十分とされます。証拠の信用性の判断に当たっては、供述の一貫性や迫真性が重視されます。供述の内容が首尾一貫していたり、犯行状況が目に浮かぶほど迫りくるものである必要があります。ところが、既に述べたように、被害者であっても、一部の記憶が失われたり、変容している可能性があります。また、正確に記憶していてもそれを上手く表現するのは難しいです。さらに、複数回に渡って取り調べを受けても一貫した供述するのは容易ではありません。その結果、供述が一貫していなかったり、曖昧なものになってしまいます。このような被害者供述は信用できないとされてしまうおそれが十分にあります。
もちろん被害者供述以外の証拠があるかどうかも重要となります。スマートフォンで子供の性器が露出している場面を撮影したり、児童買春に当たってのSNSでの事前のやり取り等、自分の犯罪の証拠ともいえるような画像を残している事件もあります。しかしながら、このような客観証拠がなければ、被害者供述以外では被疑者(容疑者)供述しか証拠がないことが多々あります。被疑者も犯行を認めているならまだしも、犯行を否認している場合は、その弁解を排斥できるかどうかが重要となります。ここで被害者供述が十分に信用できないとなれば、被疑者が起訴されて被告人となっても、有罪とすることはできません。結局、検察官が、有罪にできる見込みがないとして、不起訴としてしまうことが多々あります。
一方で、起訴されることは加害者側にとってもリスクです。特に否認したまま有罪となると、長期間の実刑となる可能性があります。そのため、加害者側も、詳細はおいて被害者側と示談をして不起訴を目指します。その際、加害者側の弁護士から、「示談しないと裁判で証人尋問されることになる」などと言われる可能性があります。そのため、やむを得ず示談に応じたり、低廉な金額で泣き寝入りする虞があります。また、加害者を許すつもりがないのに、示談書に「宥恕する」など加害者を許すことを意味する条項を盛り込まれてしまうこともあります。
厳しい裁判
検察官が起訴したとしても、それで終わりではありません。捜査段階では認めていても、起訴されて被告人となってから否認に転じることはしばしばみられます。この場合、被害者供述を録取した供述調書は証拠とはならず、被害者本人が証人として、出廷しなければなりません。近年では、被告人や傍聴席から証人が見えないようにする遮蔽措置が採られたり、保護者の同伴が認められるなど、被害者への配慮もなされてきていますが、それでも尋問対象となるプレッシャーは相当なものとなります。特に、弁護人から、性的な事項も含め私生活について詳細に訊かれたり、侮辱的な反対尋問をされることがあります。このようなことは大人でも非常に苦しいことですが、子供となると一層厳しいものとなるでしょう。
法廷における証人の証言が信用できるか判断する際も、供述の一貫性や迫真性が重視されます。警察の取調べよりも厳しい状況で、裁判官が信用できるような証言をすることは困難でしょう。
このように、起訴されて裁判となっても、子供や家族が酷く傷付けられることが多くあります。このようなことを恐れて、被害届を取り下げたり、低廉な示談金で示談に応じて泣き寝入りすることも多々あります。
子供の被害を正しく訴えるには
このように子供に対する性犯罪が処罰されるまでには、多くの障害があります。万が一子供が被害に遭ったときでも被害を止め、加害者に責任を負わせるためには、様々な段階で、適切な対応が必要です。
子供の話をよく聞く
子供が性被害を訴えたときは、それを頭ごなしに否定するのではなく、まずは話を聞くことが大切です。その際も、問い詰めたりせずに、何が起きたのか事実を話してもらうようにしましょう。話してくれた後も、「なぜ早く言わなかったのか」とか「それは違う」などと言わずに、「よく話してくれたね。辛かったね」と寄り添うことが大事です。
被害の届け出
上でも述べたとおり、取調べは子供にとって過酷なものです。警察に被害を訴えるにあたっては、親の方で子供の話を詳しく聞いておいて、整理しておきましょう。取調べは、できる限りリラックスした状態で受けられるよう、日時を調整しましょう。出来る限り同席して、休憩もしっかりとるようにして、子供へのプレッシャーを軽減するように心がけましょう。
また、同種の被害がないかどうか近隣の方々と情報共有をすることも重要となります。同種の被害があって複数の被害者が供述すれば、供述の信用性も高まります。
弁護士への相談
警察や検察、加害者側との示談交渉や裁判への対応は大変困難です。このような状況では、弁護士に依頼することも検討するべきです。被害者となった子供の供述を整理して警察や検察に報告書を提出します。警察や検察の取調べに際しても、事前に面談して取調べにおいて供述する内容の確認などを行います。
また、加害者側との示談交渉も被害者の代理人たる弁護士の役割です。安易に示談に応じるのではなく、損害を償わせるのに相応しい金額で示談を締結させます。また、示談をしても、「宥恕」など加害者を許す意味の文言を入れないようにすることもできます。
強制わいせつ罪などの重大事件においては、被害者やその法定代理人(被害者が未成年の場合は保護者です)や被害者から依頼を受けた弁護士は、犯罪の性質や被告人との関係その他の事情を考慮し相当と判断されれば、刑事裁判の手続に参加することができます。被害者や被害者代理人の弁護士も、被告人に質問したり、被告人側の情状証人などの証人に尋問することができます。また、事実や法律の適用について意見を述べることができます。この手続きを利用することで、被害の実態を裁判官により適切に伝えることが期待できます。
また、被告人が否認している場合は、被害者が証人尋問を受けることになります。被害者代理人でも公判廷において犯罪事実に関することについて証人尋問をすることはできませんが、公判前に検察官が行う証人テストやそれ以外の機会にも証人尋問について打合せをして、厳しい証人尋問にも対応できるようにしていきます。
刑事裁判で被告人に有罪判決が下され、それまでに示談などで加害者から損害賠償金の支払いを受けていないのであれば、損害賠償命令制度を利用して加害者に対する損害賠償命令を求めることもできます。
このように、弁護士は被害の届け出から刑事・民事事件の終結まで力になることができます。
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