ハラスメントへの対策

会社内でのハラスメントが問題となってきています。

ハラスメントにより心身に酷い損害を被り、会社を辞めざるを得なくなるかもしれません。パワーハラスメント(パワハラ)をはじめとしたハラスメントの対策は今や企業の義務となっています。

ここでは、どのようなハラスメントがあるのか、ハラスメントにどう対応するべきかについて説明します。

ハラスメント対策義務化

パワーハラスメント(パワハラ)対策

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」)第30条の2第1項では「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」と定めています。令和4年4月1日からは、中小企業も対象となり、すべての企業において職場におけるハラスメント対策が義務となっています。

そして、事業主は「優越的言動問題(第30条の3第1項に規定されている「労働者の就業環境を害する前条(第30条の2)第一項に規定する言動を行つてはならないことその他当該言動に起因する問題」のことを指します)に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。」(第30条の3第2項)、「事業主(その者が法人である場合にあつては、その役員)は、自らも、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。」(第30条の3第3項)、と定められています。労働者も「優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。」(第30条の3第4項)とされています。

その他のハラスメントの防止

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)は性別を理由とする差別を禁止する(第5・6条)のみならず、婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取り扱いを禁止しています(第9条)。そして、事業主に対し「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」(第11条第1項)、「職場において行われるその雇用する女性労働者に対する当該女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものに関する言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」(第11条の3)、などと定め、セクハラやマタハラを防止することを求めています。

何が「ハラスメント」になるのか

ハラスメントには様々な形があります。

パワーハラスメント(パワハラ)

パワーハラスメントについては、前述の労働施策総合推進法第30条の2第1項に規定されており、職場において行われたもので、以下の要件をすべて満たすものをいいます。

①優越的な関係を背景とした言動

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

③労働者の就業環境が害されるもの

「職場」とは、労働者が業務を遂行する場所を指し、会社の事務所に限らず、勤務時間外の懇親会や通勤中など職務の延長と考えられるものなど、労働者が業務を遂行する場所といえれば、「職場」に該当します。

「労働者」は、正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員などいわゆる非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用する全ての労働者をいいます。

「優越的な関係を背景とした言動」とは、業務を遂行するにあたって、当該言動を受ける労働者が行為者とされるものに対して、抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指します。上司から部下への言動や、その人の協力がなければ業務の円滑な遂行が困難な場合のその人の言動などがあたります。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」ものとは、その言動が明らかに業務上必要性がない、またはその態様が相当でないものを指します。当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者の関係性等の様々な要素を考慮して決められます。もっとも、人格を否定するような言動は業務上必要かつ相当な範囲を超えたとしてパワハラに当たるでしょう。

「就業環境が害される」ものとは、当該言動により、労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。

セクシャルハラスメント(セクハラ)

セクシャルハラスメント(セクハラ)とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをいいます。

「職場」とは、パワハラと同様、事務所など労働者が通常働いている場所のほか、出張先や自室的に職務の延長といえる宴会なども該当します。

「労働者」には正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、契約社員などのいわゆる非正規雇用労働者、派遣労働者も含まれます。

「性的な言動」とは、性的な内容の発言や性的な言動のことをいいます。性的な内容の発言としては、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容のうわさを流すこと、性的な冗談やからかいをすること、食事やデートへの執拗な誘い、個人的な性的体験談を話すことなどが該当します。性的な言動としては、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触れること、わいせつ図画を配布・掲示すること、強制わいせつ行為、強制性交行為などが該当します。

セクハラの行為者は、上司や同僚だけでなく、取引先や顧客もなりえます。性別に関係なく、被害者にも行為者にもなり得ます。異性間だけでなく、同性間でもセクハラとなり得ます。

妊娠・出産・育児休業等ハラスメント

マタニティハラスメント(マタハラ)、パタニティハラスメント(パタハラ)、ケアハラスメント(ケアハラ)などといわれます。

これらのハラスメントは、職場において行われる、上司や同僚からの、妊娠・出産したことや、育児休業、介護休業等の利用に関する等に関する言動により、妊娠・出産した女性労働者や育児休業・介護休業等を申出・取得した労働者の就業環境が害されることをいいます。

妊娠・出産を揶揄したり、育児休業の取得を妨げるような言動が該当します。

特に、妊娠・出産したことを理由として解雇したり、育児休業を取得したことを理由に降格させるような行為は「不利益取扱い」に該当し、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法違反となります。

一方で、育児休業の制度等の利用を希望する者に対して業務上の理由により変更の依頼や相談をすることや、客観的に見て体調の悪い妊婦の業務料を削減するなど、業務上必要な言動はハラスメントに該当しません。

ハラスメント相談

労働施策総合推進法第30条の2第2項では「事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」と定めています。

もっとも、会社によってはそもそも相談窓口を置いていないところも見られます。

また、相談しても大したことではないとかそれはパワハラではないなどと言って取り合ってくれないところもあります。さらに、相談しても他の人、ひどい場合には加害者に相談した事実を漏らすこともあります。

そうした場合は、会社内での解決にこだわるのではなく、外部に助けを求めるべきです。

各都道府県の労働局や労働基準監督署に総合労働相談コーナーが設置されています。

その他、各地の法テラスでも弁護士による相談を受け付けています。

ハラスメントの責任追及

ハラスメントによって心身に不調をきたしたり、退職せざるを得なくなってしまったときは、会社に対し、労働者への安全配慮義務を果たさなかったとして、損害賠償請求をすることが考えられます。

また、従業員である行為者の行ったハラスメントが不法行為に該当するのであれば、会社は使用者として損害賠償責任を負うことになります。

ハラスメントの内容が暴行・傷害や強制わいせつ、強制性交、名誉棄損などの犯罪に当たれば、行為者は刑事責任を問われることになります。

弁護士に相談

ハラスメントは労働者の修了環境を害しますし、ときには不法行為や犯罪に該当するものもあります。会社の相談窓口に相談しても、行為者に漏れてしまうのか心配があるかもしれません。

そうした時は、弁護士など組織外の専門家に相談することも考えましょう。弁護士には守秘義務があり、行為者や会社に秘密が漏れる心配はありません。

内容によっては、労働局など専門機関との協力、会社や行為者にハラスメントの防止の要求や損害賠償請求、刑事告訴などの手続に移行することもできます。

ハラスメントを受けているのではないかお悩みなら、弁護士への相談も考えてみましょう。

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