特殊詐欺被害~複数人からの示談の申入れ~

オレオレ詐欺などの特殊詐欺被害に遭ったときに、複数人から示談の申入れがある場合があります。その場合の問題について弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

オレオレ詐欺

事例

東京都葛飾区に住むAさんは、オレオレ詐欺の被害に遭い300万円をだまし取られてしまいましたが、警察の捜査の結果、Aさんを騙した掛け子役のXと出し子役のY及び指示役のZの3人が逮捕されました。
その後、XとYのそれぞれの弁護人から別々に、Aさんに対して「300万円の賠償と引き換えにXに対して刑事処罰を求めないという示談をしてくれないか」という連絡がありました。
Aさんは、XやYとの示談をした場合に自分が不利にならないために、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所の無料相談を受けることにしました。
(フィクションです)

示談とは

示談と一口に言っても、その内容は様々です。
単に賠償金(被害弁償金・示談金・解決金)を受け取っただけでも示談と言われることがありますが、基本的には、賠償金を受け取ったうえで、それ以上にお互い金銭のやり取りはしないという条項「清算条項」という。「本示談書に定めるもののほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する」というような文言のことが多い。)を設けて解決を図ることを示談や和解ということが多いです。
もっとも、刑事事件においては、さらに「加害者に対して刑事処罰を求めない」などの加害者を許す条項「宥恕条項」という。)まで設けた示談(刑事示談)を行うことが多いです。
示談については、こちらもご覧ください。https://higaisya-bengo.com/jidan_wakai_kaiketu/

複数人から示談の打診があった場合~被害金額を超えて示談金を受け取れるか~

刑事事件の内容によっては、加害者が複数人いる場合があり、そういった場合には、複数人から示談を申し込まれることもあります。
損害賠償請求をする場合には、加害者が複数人いるときには、共同不法行為となり、被害者の方は加害者それぞれに対して自分が被った損害の額全額を請求することができます。
事例のAさんの場合には、Xに対して300万円、Yに対して300万円、Zに対して300万円をそれぞれ請求することができます。
しかし、仮にXがAさんに対して300万円を支払った場合には、AさんはさらにYやZに対して300万円を請求することは出来なくなります。
もっとも、示談交渉の中で受け取る場合には、あくまでも任意交渉ですので、一人から被害金額全額を受け取ったとしても、別の人から別途解決金として金銭を受け取るということは可能です。
そのため、事例のAさんの場合には、XとYそれぞれから300万円を支払うという打診が来ていますので、それぞれから300万円を受け取ることが可能です。

複数人から示談の打診があった場合~宥恕の効果~

共犯事件で、加害者全員から示談の申入れがあった場合、示談を受けると当然加害者全員に対して効果を与えることになります。
特に宥恕文言が入っている示談を締結した場合、加害者全員が不起訴処分となり刑罰を受けなくなる可能性があります。
もし、どうしても刑罰を受けてほしいと考えている場合には、賠償金は受け取るが許すつもりはないということを明確にしておくべきでしょう。
問題となるのは、共犯者の一部の者からしか示談の申入れがなかった場合です。
共犯者の一部とだけ示談をしたとしても、その効果は示談をしていない共犯者に対しても及ぶ可能性があります。
たとえば、事例のAさんがXとYから示談金の支払を受け、XとYには刑罰を求めないという宥恕付きの示談をした場合、XとYの処分について軽くなることは当然ですが、示談金を受け取ったことにより、Zについても有利な事情として扱われ、Zの処分も軽くなる可能性があります。
特に、告訴をしている事件について、共犯者の一部とだけ示談して、示談の内容としてその一部の共犯者に対する告訴を取り消すという文言が入っていた場合、告訴の取消しは共犯者全員に効力が及ぶため(刑事訴訟法238条1項)、共犯者全員に対する告訴の効果が失われてしまいます。
刑事裁判にかけるために告訴が必要とされている事件(親告罪)の場合には、一部の者に対する告訴の取消しであったとしても、全員に対する取消とされてしまうので、刑罰を与えることが出来なくなってしまうことに注意が必要です。
その他、示談における一般的なメリット・デメリットについては、こちらをご覧ください。https://www.houterasu.or.jp/higaishashien/toraburunaiyou/keiji_tetsuzuki/jidan/faq1.html

示談の申入れがあれば

示談の申入れがあった場合、その申入れの内容が法律的に見て妥当かどうかは経験を積んだ弁護士に確認してもらうのが一番です。
特に複数人から示談の打診があった場合には、安易に示談を受け入れてしまうと思ってもいなかった効果が発生する場合もあります。
そのため、示談の申入れがあったときにすぐに結論を出すのではなく、専門家である刑事事件専門の弁護士にまずは相談してみてください。

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