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会社の従業員に、会社の評判を悪くするようなウソ情報の書き込みをされた場合どうすべきか、刑事被害者案件の取り扱い豊富な弁護士が解説します。
事案の概要
A社長は、愛知県内で、飲食店を多店舗展開する会社(A株式会社)を経営しており、従業員は全部で100人程、年商は10億円程度であった。
あるとき、自社店舗のインターネット上の口コミをチェックしていると、
「A株式会社が経営しているレストラン〇〇はいかない方がいい。従業員の対応も最悪だし、なにより料理にはゴキブリが入っている。
カネを払う価値などないばかりか、店で食事などすればゴキブリを食べることになり、場合によっては多額の治療費を払うことにもなりかねません。
皆さん絶対に行かないようにしましょう」
との記載があるのを発見した。
なお、A社は衛生管理を徹底しており、料理にゴキブリが入っているようなことはない上、その他の客から同様のクレームを受けたこともなかった。
すぐさまA社長を含めた役職者で会議を開いたところ、A株式会社に対して不満を漏らしている従業員Xが書き込みをしている可能性が浮上した。
Aが業務で使用しているA株式会社支給のパソコンに管理者権限でログインしてパソコンを調査したところ、従業員Xが当該業務用のパソコンで上記書き込みを行っていたことが判明した。
(事案はフィクションです。)
名誉毀損とは
名誉毀損行為を罰する法律は、以下のようになっています。
刑法
第二百三十条
1 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀(き)損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
第二百三十条の二
1 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
まとめると、具体的な事実を書きこんで、他人の名誉、つまり社会的評価を低下させるようなことを公然と言ったり書き込んだりしたような場合には、基本的に名誉毀損罪が成立することになります(刑法第二百三十条第1項)。会社などの法人も、被害者になるとされています。
但し、刑法第二百三十条の二第1項により、その事実が公共の利害に関することで、公益を守る目的のみで公表された場合に、その事実が真実であれば、公表された人は罰せられないことになります。名誉毀損罪については、こちらの記事もご参照ください。https://keiji-bengosi.com/kyohaku_meiyokison/
損害賠償の点でも、上記刑法第二百三十条の二第1項を満たす場合や、悪口だとしても意見や論評の範囲にとどまっている場合などは損害賠償責任が生じないケースはあります。
今回の事案で言えば、そもそも料理にゴキブリが入っているようなことが無く、従業員Xとしてはゴキブリが料理に入っているとか、レストラン〇〇の環境が不衛生であるというようなことを証明するのは難しそうです。
文面からしても、事実以外に本人の感想が過激に記述されていますから、A株式会社やレストラン〇〇の評判を落とすために書きこんだと見られ、公益のために書き込んだとはいえなさそうです。
事案では、名誉毀損罪が成立すると評価できる可能性が高いと言えます。
名誉毀損の被害に遭ったら
名誉毀損の被害に遭ってできることは、主に以下の2つです。今回は書き込んだ人が判明しているので、発信者情報の特定については省略します。
①刑事処罰を求めること
事案の詳細をまとめて、管轄の警察署に被害届と告訴状を出します。
名誉毀損罪は親告罪とされていて、被害者が被害届だけでなく告訴状も提出することで初めて加害者を処罰することができます。
事案が明らかで、警察官の方が親切であれば、特段告訴状の作成について困難はないかも知れませんが、そうでないことも多いですし、告訴状も一つの法律文書になります。被害者の方、会社の法務担当者の方単独での作成は不可能とはいえないまでも困難が多いことでしょう。
②損害賠償を獲得すること
民法で言う不法行為が、損害賠償請求の根拠となるでしょう。実際に損害賠償を得る手段としては、大きく2つあります。それは、裁判外での交渉による方法と、裁判で勝訴判決を得る方法です。
裁判外での交渉による方法は、刑事告訴と組み合わせることで、事実上加害者に示談締結、損害賠償金支払を動機づけ、早期解決の可能性を上げるメリットがあります。ただし、相手方が交渉や任意の支払いにに応じない場合は、このメリットが享受できないことになります。裁判によらない示談や和解については、こちらの記事で詳細を解説しています。https://higaisya-bengo.com/jidan_wakai_kaiketu/
裁判で勝訴判決を得る方法については、相手方が交渉に応じなくても損害賠償を得るための公的なお墨付きを獲得できるメリットがあります。ただし、事実の立証責任が原則として被害者側にあること、時間がかかること、実際に加害者の財産から損害賠償金が回収できる保証までは無いこと、裁判をすることで書き込みの存在がさらに広まってしまうというようなデメリットもあります。
刑事事件被害対応は弁護士に相談
名誉毀損の被害に遭われた方は一度弁護士に相談してみることをお勧めします。特にあいち刑事事件総合法律事務所では、被害者弁護活動の経験も豊富な弁護士が相談に当たらせて頂いております。
事実がそもそも刑事事件や不法行為にあたるのかを確認していく必要がありますし、刑事処罰や損害賠償を求めていくのにも被害者の方が独力で進めていくには困難が伴うことが予想されます。
弁護士に相談することで、事案を整理し、解決策を見出していく助けになっていくはずです。