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子供の性被害が多発
近年、子供に対する性被害が多発しています。
もっとも、これは最近になって急増したのではなく、発覚する事件が増えたことも一因といえます。これまで子供に対する性被害があまり発覚しなかったのは大人とは違う子供ゆえのいくつかの原因があります。
子供自身が被害を受けたことを自覚していない
子供は性被害を受けても、自分が被害を受けたとは認識していないことが多いとされています。
子供は知識が十分ではなく、自分が何をされているか理解できていないことが多いです。
また、大人がしていることなので、悪いことではないだろうと受け止めることもあります。保育園や学校の先生、親戚の人など信頼している大人にされた場合は、よりこのように受け止めるでしょう。
大人に訴えても聞き入れてくれない
子供でも性被害を受けて違和感を感じたり、気持ち悪いと思い、親や先生といった身近の大人に相談することがあります。そうしたときでさえ、親や先生は「何かの間違いだ」「大したことじゃない」などと言って子供の訴えを否定することがしばしば見受けられます。大人からすれば、子供は未熟だと思っているので、子供の勘違いだと思うのでしょう。また、知り合いや学校の教師など信頼できる立場の人が子供を性の対象にしたり、性犯罪のようなことをするはずがないと思い込むこともあります。特に深刻なのが、パートナーが再婚相手の子供に対して性加害をした場合です。このようなときでも、一家の離散を避けるために被害がなかったようにするでしょう。こうした対応をされてしまうと、子供もおかしいと思っても相談しなくなってしまいます。
捜査が進まない
親などが子供の訴えを聞いて、警察に被害届けを出したとしても、捜査が進展するとは限りません。
大人が被害者の場合にも当てはまりますが、性加害は周囲に誰もいないような状況で行われることが多いです。そのため、警察も当事者である子供を取り調べてその話を聞かなければなりません。これは大人でも大変苦痛を伴うものです。子供にはより厳しい苦痛となるでしょう。
また、被害を受けた事実を正確に認識し、記憶したうえで、供述することは容易ではありません。ショックでそもそも被害状況を覚えていないことがありますし、被害のショックを和らげるために無意識のうちに記憶を変容させていることもあります。被害事実を正確に記憶していたとしても、聴き取りをする人が正確に認識できるよう供述することは非常に難しいことです。子供が供述するとなると、一層困難でしょう。そのため、何度も取り調べを繰り返すことになり、被害者であるはずの子供にはさらなる負担となってしまいます。このような負担を避けるため、警察への被害届を断念することもあります。
このようにして苦労して被害者の供述が取られたとしても、これで犯人を処罰できるとは限りません。被害者供述が信用できるものでなければ、証拠として不十分とされます。証拠の信用性の判断に当たっては、供述の一貫性や迫真性が重視されます。供述の内容が首尾一貫していたり、犯行状況が目に浮かぶほど迫りくるものである必要があります。ところが、既に述べたように、被害者であっても、一部の記憶が失われたり、変容している可能性があります。また、正確に記憶していてもそれを上手く表現するのは難しいです。さらに、複数回に渡って取り調べを受けても一貫した供述するのは容易ではありません。その結果、供述が一貫していなかったり、曖昧なものになってしまいます。このような被害者供述は信用できないとされてしまうおそれが十分にあります。
もちろん被害者供述以外の証拠があるかどうかも重要となります。スマートフォンで子供の性器が露出している場面を撮影したり、児童買春に当たってのSNSでの事前のやり取り等、自分の犯罪の証拠ともいえるような画像を残している事件もあります。しかしながら、このような客観証拠がなければ、被害者供述以外では被疑者(容疑者)供述しか証拠がないことが多々あります。被疑者も犯行を認めているならまだしも、犯行を否認している場合は、その弁解を排斥できるかどうかが重要となります。ここで被害者供述が十分に信用できないとなれば、被疑者が起訴されて被告人となっても、有罪とすることはできません。結局、検察官が、有罪にできる見込みがないとして、不起訴としてしまうことが多々あります。
一方で、起訴されることは加害者側にとってもリスクです。特に否認したまま有罪となると、長期間の実刑となる可能性があります。そのため、加害者側も、詳細はおいて被害者側と示談をして不起訴を目指します。その際、加害者側の弁護士から、「示談しないと裁判で証人尋問されることになる」などと言われる可能性があります。そのため、やむを得ず示談に応じたり、低廉な金額で泣き寝入りする虞があります。また、加害者を許すつもりがないのに、示談書に「宥恕する」など加害者を許すことを意味する条項を盛り込まれてしまうこともあります。
厳しい裁判
検察官が起訴したとしても、それで終わりではありません。捜査段階では認めていても、起訴されて被告人となってから否認に転じることはしばしばみられます。この場合、被害者供述を録取した供述調書は証拠とはならず、被害者本人が証人として、出廷しなければなりません。近年では、被告人や傍聴席から証人が見えないようにする遮蔽措置が採られたり、保護者の同伴が認められるなど、被害者への配慮もなされてきていますが、それでも尋問対象となるプレッシャーは相当なものとなります。特に、弁護人から、性的な事項も含め私生活について詳細に訊かれたり、侮辱的な反対尋問をされることがあります。このようなことは大人でも非常に苦しいことですが、子供となると一層厳しいものとなるでしょう。
法廷における証人の証言が信用できるか判断する際も、供述の一貫性や迫真性が重視されます。警察の取調べよりも厳しい状況で、裁判官が信用できるような証言をすることは困難でしょう。
このように、起訴されて裁判となっても、子供や家族が酷く傷付けられることが多くあります。このようなことを恐れて、被害届を取り下げたり、低廉な示談金で示談に応じて泣き寝入りすることも多々あります。
子供の被害を正しく訴えるには
このように子供に対する性犯罪が処罰されるまでには、多くの障害があります。万が一子供が被害に遭ったときでも被害を止め、加害者に責任を負わせるためには、様々な段階で、適切な対応が必要です。
子供の話をよく聞く
子供が性被害を訴えたときは、それを頭ごなしに否定するのではなく、まずは話を聞くことが大切です。その際も、問い詰めたりせずに、何が起きたのか事実を話してもらうようにしましょう。話してくれた後も、「なぜ早く言わなかったのか」とか「それは違う」などと言わずに、「よく話してくれたね。辛かったね」と寄り添うことが大事です。
被害の届け出
上でも述べたとおり、取調べは子供にとって過酷なものです。警察に被害を訴えるにあたっては、親の方で子供の話を詳しく聞いておいて、整理しておきましょう。取調べは、できる限りリラックスした状態で受けられるよう、日時を調整しましょう。出来る限り同席して、休憩もしっかりとるようにして、子供へのプレッシャーを軽減するように心がけましょう。
また、同種の被害がないかどうか近隣の方々と情報共有をすることも重要となります。同種の被害があって複数の被害者が供述すれば、供述の信用性も高まります。
弁護士への相談
警察や検察、加害者側との示談交渉や裁判への対応は大変困難です。このような状況では、弁護士に依頼することも検討するべきです。被害者となった子供の供述を整理して警察や検察に報告書を提出します。警察や検察の取調べに際しても、事前に面談して取調べにおいて供述する内容の確認などを行います。
また、加害者側との示談交渉も被害者の代理人たる弁護士の役割です。安易に示談に応じるのではなく、損害を償わせるのに相応しい金額で示談を締結させます。また、示談をしても、「宥恕」など加害者を許す意味の文言を入れないようにすることもできます。
強制わいせつ罪などの重大事件においては、被害者やその法定代理人(被害者が未成年の場合は保護者です)や被害者から依頼を受けた弁護士は、犯罪の性質や被告人との関係その他の事情を考慮し相当と判断されれば、刑事裁判の手続に参加することができます。被害者や被害者代理人の弁護士も、被告人に質問したり、被告人側の情状証人などの証人に尋問することができます。また、事実や法律の適用について意見を述べることができます。この手続きを利用することで、被害の実態を裁判官により適切に伝えることが期待できます。
また、被告人が否認している場合は、被害者が証人尋問を受けることになります。被害者代理人でも公判廷において犯罪事実に関することについて証人尋問をすることはできませんが、公判前に検察官が行う証人テストやそれ以外の機会にも証人尋問について打合せをして、厳しい証人尋問にも対応できるようにしていきます。
刑事裁判で被告人に有罪判決が下され、それまでに示談などで加害者から損害賠償金の支払いを受けていないのであれば、損害賠償命令制度を利用して加害者に対する損害賠償命令を求めることもできます。
このように、弁護士は被害の届け出から刑事・民事事件の終結まで力になることができます。